編集/発行・漢方医薬新聞社 

491号(11年1月1日発行)〜495号(11年4月30日発行)

       

甘草の栽培技術を確立
1年3カ月で局方適合有効成分に
中国で共同研究、特許出願

 (株)ツムラ(芳井順一社長)は、中国の企業(中国医薬保健品股份有限公司)と北京中医薬大学との共同研究により、有効成分のクリチルリチン酸含量が平均3.5%の甘草を、播種後1年3ヵ月という短期間で収穫する栽培に成功し、現地中国で特許を取得した。
 甘草は同社が取り扱っている医療用漢方エキス製剤129処方中94処方に含まれる最多品目となっているが、その大部分は中国北部の乾燥地帯に自生する野生品に依存し、近年では、需要の増加に伴う乱獲による砂漠化や枯渇などが懸念されていた。生薬としての甘草の栽培は、日本薬局方の規格(クリチルリチン酸含量2.5%以上ほか灰分、性状に規定がある)の条件を満たすことが難しく、これまでの土壌栽培では最低でも3〜4年以上を要しており、良品の効率的な生育が課題となっていた。

 4月18日(月)の記者発表で同社の久島正史専務取締役は、「2001年から10年を見込んで開始し、そ の通りの年月を要した」と述べ、さまざまな栽培環境を設定して成功にこぎつけたことを明らかにした。
 また、前例のない栽培甘草の育成の詳細と進展の経緯について、同社生薬本部の武田修己生薬研究部長が次のように報告した。
 「開始当初の'02年の試験栽培では、有効成分のクリチルリチン酸含量が2.5%に達しなかった。そこで、高含量の条件となっている(1)少ない降水量、(2)豊富な地下水、(3)粘土質土壌、(4)直播栽培、(5)初夏の収穫、(6)地上部の切除の6項目を組み合わせることを試みた結果、'06年になって、内蒙古の圃場の5月の収穫で4%の高含量に成功した。」
 そして、'10年7月には40ヘクタールの試験栽培地の内、6ヘクタールから5.5t(生薬部位のみの収量)、計400個体をサンプリンクした結果、3.5%(標準偏差プラスマイナス0.4%、最低3.2%、最高4.0%)のクリチルリチン酸が定量でき、特許出願に至った。野生甘草の6ヘクタールからの収量は0.8t程度にとどまるという。
 共同研究のパートナーについては、特許発明者で同社生薬本部の戸田則明氏が、「中国医薬保健品股份有限公司は医薬品の輸出入を行う企業。薬用植物栽培全般の知識があり、栽培関係者とのつながりが深く、現地での調整役を担った。北京中医薬大学は、以前から甘草研究の豊富なデータを保持しており、多くの助言を受けた」と解説した。
(詳細は本紙495号に掲載)


災害時の漢方 — 現場からの提言
「桔梗」に津波 — 播種避難していた

 3月11日に発生した東日本大震災は、日本に大きな爪痕を残し、今も余震が続いている。今号では、仙台市で漢方薬局を営む田口哲之氏(泰生堂薬局)に、現地の様子をうかがった。被災地おいて漢方の有用性があることや、一部の関係者の間で知られていた桔梗の自生地が津波の被害にあったが、運よく今年、種を別の場所で播種しており、現在60本ほど発芽していることを明らかにした。
 今回の災害では、被災地が寒く、地震直後は送電やガスなどの供給がストップして暖がとれない状態が続いた。田口氏は、「四逆湯や真武湯などの附子剤を提案できるケースがたくさんあった」と語った。
 神経が高ぶって、「眠れない」と訴えた人も多かった。田口氏は、「とくに高齢者は神経が高ぶり易い。これは予測できることなので、初めから処方するような体制がとられることが望ましい」と提言し、抑肝散や香蘇散、板藍根など、神経の高ぶりから来る症状や風邪の症状、感染症などに対する漢方方剤の有用性を示し、「体を温めたり、ショック状態から脱出させる方剤はいくらでもある」と語った。田口氏自身も附子の入った錠剤や牛黄、仙草、じゃ香など、強心作用があって気の高ぶりを鎮める丸剤などを服用して艱難を凌いだという。
 田口氏は、傷やけがなどの応急手当とともに、非常事態を乗り越える目的に即した製剤がたくさんあることを震災の経験の中で提言しており、災害時の対策として提案できることがありそうだ。
 また田口氏は、かねてより福島県と宮城県の県境付近で群生する桔梗の自生地を観察していたが、ここも地震と津波に襲われた。しかし、昨年からいくつかの種を採取して自宅に播種し、自生地に植え戻す作業を試みていた。田口氏に救われた桔梗は、現在60本ほど芽を出しているという。
 桔梗が群生していたのは海から500mほどの平地にある低い山の斜面で、大勢の人が亡くなっている地域。津波は確実に押し寄せたが、田口氏は「桔梗は根のものだから、ひょっとすると芽を出すかもしれない」と期待しており、「発芽すれば、復興の象徴となる」と語った。
(詳細は本紙495号に掲載)

KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM 2011
大学卒前教育から初期研修までの
一貫性のある漢方医学教育を目指して

 カンポウメディカルシンポジウム(ツムラ主催)は今年で11回目を迎え、2月5日(土)に京王プラザホテルにおいて開催された。大学卒前教育から初期研修までの一貫性のある漢方医学教育を目指し、今回は850名の医師・研究者らが参集した。
 挨拶に立ったツムラの芳井順一社長は、同社の活動目標である(1)漢方医学の確立、(2)育薬の推進、(3)漢方の国際化の3点に触れ、(1)については医師国家試験に漢方医学が採択されることを到達点として、約15年前から取り組みを開始し、現在、全国80医科系大学中78大学が8コマ以上の漢方のカリキュラムを必須講義としたほか、79大学が「漢方外来」を設置していることを紹介した。
 (2)については、漢方薬が特異的に効果を発揮する疾患に的を絞り、治療効果の科学的なエビデンスを確立して薬効の認知を促すことに注力。これまで手掛けてきた六君子湯、抑肝散、大建中湯に加え、牛車腎気丸、半夏瀉心湯を新たな育薬処方に選定して、がんの化学療法の副作用軽減に焦点を当てたエビデンスの蓄積を進めている。
 (3)については、米国での大建中湯の開発作業を紹介した。現在、ミネソタ州に本部を置く総合病院のメイヨークリニックでの治験が進行中で、「日本の大建中湯が米国FDAの許認可品となり、米国上市を実現すれば、日本国内における漢方薬の存在価値をさらに高めると確信している」と述べた。
(詳細は本紙495号に掲載)


「創」「療」融合薬学の新展開
健康長寿を実現する薬学へ
教育改革の中、「薬学」の主体再確認
日本薬学会第131 年会 静岡で

 来る3月28 日(月)から4日間、日本薬学会第131 年会が静岡市のグランシップなど4会場で開催される。奥直人組織委員長(静岡県立大)は、「健康長寿は万民の願い。薬は健康長寿の重要な要素。薬学教育改革以来とかく対比されがちな創薬と医療を統合した"薬学"のアイデンティティーを再確認したいという意図を込めた」と今大会のテーマの趣旨を述べた。

 今大会を組織する静岡県立大学は「薬食同源」「食薬融合」の戦略を得意とする大学で、その特色を反映した大会となる。特別企画として、「薬学と食品栄養科学の協働がめざす融合的科学」と題し、緑茶カテキンの薬食相互作用や、ヤマブシタケ由来の抗認知症物質、食後高血糖抑制の意義など、同大学の研究者を含めたセッションが最終日に開かれる。特別講演15題(うち海外演者9題)、シンポジウム57題、ランチョンセミナー18題、一般講演およそ3千題(口頭1千題、ポスター発表2千題)という大きな大会で、一般講演には機能性食品や一般食品素材の成分研究と、それらの疾病改善作用を検証した研究が多数含まれている。
 漢方・生薬・天然物化学関連の演題は、東京大学天然物化学教室が特別シンポジウム「天然物化学とケミカルバイオロジー」を企画したほか、一般シンポジウムで「ストレスと脳のはたらき」をテーマに武田厚司氏(静岡県立大)など4人が研究を発表する。
 一般シンポジウムでは「生薬学の伝統と革新—医療人教育の中の生薬」と題して、野口博司(静岡県立大)、伊藤美千穂(京都大学)両氏のオーガナイズのもと、鈴木洋史氏(東大病院)など4人が薬学教育を検討する。
 またランチョンセミナー(小林製薬共催)では、石黒京子氏(武庫川女子大)、秋葉哲生氏(あきば伝統医学クリニック)が講演する。
 一般講演の「栽培・品質評価」のセッションでは、甘草(北海道医療大学、医薬基盤研、栃本天海堂)など3題の発表ほか、山茱萸由来成分の2型糖尿病への作用(富山大、長崎大)や、加工附子(名古屋市立大)などの演題もある。
 一般向けの市民公開講座や、昨年も企画された高校生によるシンポジウムもあり、期間中は賑わいそうだ。 (詳細は本紙494号に掲載)

【お知らせ】上記の日本薬学会第131 年会 は、東日本大震災の影響で中止となりました。


The 1st Joint symposium
between WHO Collaborating Centers
for Traditional Medicine in Korea and Japan
日韓「WHO伝統医学研究協力センター」が初の合同シンポジウム
北里大学白金キャンパスで

 世界保健機関(WHO)伝統医学協力センターの日韓4センター(北里大学東洋医学総合研究所、富山大学和漢診療学講座、慶煕大学東西医学研究所、ソウル大学天然物科学研究所)が、北里大学薬学部において、第1回目の合同シンポジウムを開催する。
 同4センターは昨年6月、共同活動、国際会議の調整、外国人研究者の任命、覚書の改正の4項目における協力体制の覚書を交わし、ワークショップ・学術会議などの開催、共同研究、出版、学術雑誌、ニュースレター、論文の交換などを含む共同活動を展開することに合意。今シンポジウムの開催により、具体的な活動がスタートしていることを示す形となった。(詳細は本紙494号に掲載)

 ■開催概要は次の通り。
【日 時】4月9日(土)9時〜13時 ※参加費無料
【会 場】北里大学薬学部コンベンションホール
【申込み】北里大学東洋医学総合研究所
WHO伝統医学研究協力センター
TEL&FAX 03-5791-6346
Email:omrcwho@insti.kitasato-u.ac.jp
※要事前連絡(氏名・所属・連絡先をメール又はFAX )

第1回日韓WHO伝統医学研究協力センター
合同シンポジウムのプログラム等を紹介している
ポスター(左)の拡大版(PDF)がダウンロードできます

【お知らせ】上記の第1回日韓WHO伝統医学研究協力センター 合同シンポジウム は、東日本大震災の影響で中止となりました。

   

特産農作物セミナー
国内薬用植物の9割が健康食品原料
生薬の国内生産推進 ーー 薬価とどう折り合いをつけるのか

 さる1月17日(月)、(財)日本特産農産物協会主催の特産農作物セミナーが三会堂ビル「石垣記念ホール」(東京・赤坂)にて開催され5名の演者が講演した。食料自給率の向上と農業経営基盤の安定化への取り組みが紹介される中、特産品薬用作物としての生薬栽培や、ゴマなど数品目の現状が報告された。
 販売価格が生産費を恒常的に下回っている作物を対象に差額を交付する「農業者戸別所得補償制度」が22年度から開始された。初年度の確定申請件数は13万3千件、申告面積は主食用米が115万haで耕作面積の約75%、水田活用作物(麦、大豆、飼料作物、そば、なたねなど)は計約65万haとなった。23年度には対象作物にてん菜、じゃがいも(でん粉原料用)が加わるほか、水田だけでなく畑作にも適用される。
 そうした状況をふまえて演者の春日健二氏(農水省特産農作物対策室長)は、「たとえばそばの自給率は年間需要量の14%、なたねは年間の需要をほぼ輸入に頼っている。しかも農業者の平均年齢は66歳と高齢化が進み、この15年間で所得が半減するなど危機的状況にある。農業者戸別所得補償制度により、なたねの国内生産を32年度までに10倍にすることを目指している」と述べた。
 一方、薬用植物の平成20年度の生産状況は、栽培戸数6938戸、栽培面積1497ha、収穫面積1129ha、生産量7845t。栽培面積と収穫面積の差は、オタネニンジンやオウレンなど、収穫に複数年を要することから生じている。生産量7845tには、ケールやアロエ、ハーブ類が含まれ、9割は健康食品原料となっている。春日氏は、生薬が中国産に依存している現状や、甘草や麻黄に対する中国の輸出規制に触れ、「国内での増産が望まれている。地域活性化の観点からも生産を推進している」と語った。
 演者のうちの日本漢方生薬製剤協会生薬委員会・浅間宏志委員長(ウチダ和漢薬)は、生薬の使用品目と数量の実態調査結果について報告。昨年使用実績のあった生薬248種類のうち約3割(86品目)は国内生産で、中国産は203品目、使用頻度の高い上位51位が全体の90%を占めていたという。年間約2万tの医薬品原料生薬のうち、国産は12%、中国が83%と、中国への依存度が高いことを強調。「医薬品は、生産者と使用者をつなぐ取引市場が存在しないため、価格や数量、品質など、生産者と製薬メーカー、卸業者間の需給ニーズをマッチさせるための相互理解が重要事項。医療用については薬価基準があり、また日本薬局方による性状や有効成分などの品質制限もある」と述べ、「規格に適合した品質や外国産と競合できる価格、安定供給を支える数量、トレーサビリティーが求められる。国内で生産するには、栽培に必要な種苗の確保と栽培技術の確立が必要」と紹介し、理解を求めた。
(詳細は本紙493号に掲載)


国際情勢の変化と安定供給——業界一丸となって対応
日本漢方生薬製剤協会 平成23年新年祝賀会

 日本漢方生薬製剤協会(日漢協・芳井順一会長)の平成23年新年祝賀会が、1月20日(木)、都内のホテルで開催された。
 当日は厚生労働省、日本薬剤師会、関係諸団体、日漢協の会員が集い、来賓の藤井基之参議院議員、成田昌稔厚生労働省審査管理課長、木村政之日本製薬団体連合会理事長、児玉孝日本薬剤師会会長らから同協会の活動に対するエールが送られた。
 挨拶に立った芳井会長(ツムラ社長)は昨年を振り返り、「日漢協にとって、国際情勢の変化への対応が大きな課題だった」として、ISO/TC249(国際標準化機構/伝統中医薬技術委員会)第1回会議において、国際標準化の対象に天然薬物の品質と安全性が取り上げられたことなど三つの課題を提示し、それらへの対応として日本東洋医学サミット会議に参画しサポーターとして承認されたことなどを報告した。
 その他の課題として、「ベーシック・ドラッグファーマとしての医療用漢方製剤の安定供給を図る上で、薬価ダウンに歯止めをかけることが協会の大きなテーマの一つ」と述べた。また一般用医薬品に関しては、関係5団体(日漢協、OTC薬協、直販協、全家協、全配協)が共通する課題(薬事、安全性、広告、局方等)について、統一組職名の下に活動することが決定したことを報告。「共に取り組んでいきたい」との決意を表明した。
(詳細は本紙493号に掲載)

先哲医家とのエピソード披露
「第30回漢方学術大会」特別講演で
急性疾患や重症になぜ効くのか
方剤・臨床から見る「漢方の何たるか」

 昨年11月21日(日)に聞かれた第30回漢方学術大会(日本漢方協会主催)では、特別講演で伊藤敏雄氏(日本漢方協会監事/元ウチダ和漢薬会長)が『戦後の漢方界—私の漢方人脈図』と題して講演。また大野修嗣氏(大野クリニック)が『日常の急性疾患と漢方』と題し、風邪と下痢・便秘に対する漢方治療について、即効性を見る病態と方剤、またゆっくりと効果をもたらす病態と方剤を見出す中で、「漢方の何たるか」を論じた。

   伊藤氏は、昭和25年にウチダ和漢薬の前身である内田商店に入社し、営業マンとしてスタート。代表取締役社長、会長、相談役を経て平成15年に退社するまで、漢方関連雑誌である月刊『和漢薬』の編集を担当し、600号(平成15年5月刊)という金字塔を打ち立てた。今回の講演では、自身の人脈を系図にして紹介し、薬の品質に厳しかった修琴堂医院の大塚敬節氏、「筋金入りの漢方家」だった朴庵塾の荒木性次氏、弟の霊弔う「長江の石」を所望した矢数道明氏、朝比奈泰彦氏に師事した大阪大学の高橋真太郎氏、一貫堂の門人で東洋堂医院の木村佐京氏などのエピソードを披露した。

 同じく特別講演演者の大野修嗣氏は、治療学においては漢方が優れているといわれる根拠として、ハンス・セリエ(1907〜1982)が提唱した「ストレス学説」における自律神経系の移行の概念が傷寒論の病位の考え方と合致しており、しかも移行の時々に応じた方剤を傷寒論はすでに提示し、治療法が確立されていることを指摘した。病期を「警告反応期」「抵抗期」「疲弊期」の3区分で論じるストレス学説に対し、傷寒論は6区分(六病位)で処方選択を行う。大野氏は、「『短期間で治すことができない』という先入観で漢方治療を選択しないのは、残念なこと」と述べ、「漢方は急性、重症にこそ使う」と明言し、方剤の使い分けの手立てや構成生薬の意味を症候と併せて論じた。
(詳細は本紙492号に掲載)


一歩進んだ要求に応えるための変革を
日本漢方交流会・第43回全国学術総会

 東京有明医療大学において昨年11月20日(土)に開催された日本漢方交流会・第43回全国学術総会は、皮膚疾患をテーマとして特別講演ほか会員発表が行われた。

 特別講演の演者をつとめた佐竹元吉氏(お茶の水女子大学)は、日本薬局方の第七改正の際、当時の化学薬品に薬害が多く、漢方・生薬を見直すことになり、約200種の生薬が収載された経緯を解説。また「漢方薬・生薬認定薬剤師制度」について、「6年制薬学部において和漢薬の知識を得た学生の卒業後の受け皿として必要になる。専門領域の人材育成の場として、さらなる確立を目指す」とした。
 さらに佐竹氏は、大塚敬節創方の七物降下湯(四物湯に釣藤鈎、黄耆、黄柏を加味)を高血圧モデルラットに経口投与した実験結果を報告。「いずれのラットも血圧には全く変化がなかったが、17週目ころから非投与群が死亡していくのに対し、体重1kgあたり2gの七物降下湯を毎日投与していた群は死亡せず、41週目の生存率は50%対90%と、大きな差がついた。血圧が高くても、臓器不全を起こさず、健康に生活できる方法があるのでは」と考察した。

 聖光園細野診療所の中田敬吾氏も特別講演を行い、実践に即した皮膚疾患の漢方治療の実際を披露。皮膚疾患の基本的な考え方は「現れた発疹の状況によって寒熱虚実、気血水弁証を行って治療を進めていくのが基本。また皮膚には、外界からの侵襲から体を守る『衛気』が存在し、その不足や衰えが皮膚疾患と強く関係している」として、局所の根治法と、全身的な陰陽虚実から治癒力などを判断する本治法を、症状に合わせて使い分けたり、両面から考えたり必要があることを論じた。

 「新しい創傷治療」と題して講演した石岡第一病院の夏井睦氏は、創傷治療の原則である「乾燥」と「消毒」が、生体理論から見ると実は全く誤った治療法で、本来は「傷の消毒をやめ、乾燥を防ぐ」が正しいと論じた。この2原則が、皮膚損傷を簡単に、しかも傷跡もきれいに治すという。

 そのほか、シンポジウムでは症例検討3演者から、「症例を基にした皮膚病の解明」と題して、加藤聡(九州漢方研究会)、石原タツ(東京漢方教育研究センター)、太田順康(東海漢方協議会)の各氏がそれぞれ症例を提示し、意見交換がなされた。
(詳細は本紙492号に掲載)

「解す」「温める」「活気」
新春インタビュー 二宮文乃氏 熱海・アオキクリニック
現代医学の検査結果も処方選択の重要項目

 新春を迎え、今号では漢方医で皮膚科の医師の二宮文乃氏(アオキクリニック院長)のインタビューを掲載した。このWEBページでは、二宮医師が語った印象深い言葉を抜粋してご紹介しよう。

 体が硬くなっている人、冷えている人が多い
「患者さんは体が硬くなっている人が多い。温めること、話をすること、肩の凝りをとったり、音楽や水の流れる音を聴いてリラックスしたり。まず診察室で問診をして、体の温度と汗の出力を測ってから、腹診などの診察をして、そのあとで階下の治療器で皮膚科処置をするので、初診では一人が1時間から1時間半くらいかかります。」
 局所と全体の両方から診断、治療する
「たとえばがんは、病巣部以外に原因がある可能性がありますから、悪いところを手術で取ってしまえば治療は終わりということではなく、がんを踏まえた診断を継続する必要があります。もし五臓六腑全体の調子がおかしいとしたら、自律神経が不調かもしれないし、診断がついたら、それを治療しながら、病巣部は病巣部で取り去る。そうすると、残った臓器がしっかりしてきて、体が回復してきます。それが東洋医学の考え方であり、治療法です。」
 手のひらと足の裏の汗がストレス信号、自律神経機能の不調を診断
「人間はかつて四つ這いで生活していたので、手のひらや足の裏はとても敏感で、精神的なストレスを感じた時に汗が出るという特徴があります。汗をかくと、蒸散熱が冷えの原因になります。もし手足が冷たければ、お腹を触ってみて、自律神経の不調で汗が出ているのなら、それを改善する薬を使う。表面だけでなく体の中も冷えていたら、その冷えを取る薬とともに、自律神経を改善する薬も使います。 内側と外側の薬を一緒に使うと、巡りがとてもよくなります。」
 『受・想・行・識』がよく働いていれば脳機能の病気にはならない
「『五体論』では、受精卵が子宮に着床して8週目くらいから脳ができ始めるときに、『識』つまり潜在意識がすでに入るといわれ、生まれてから死ぬまでそれを持っています。そして、脳の機能の中の『受・想・行・識』をもって、情報を受け取ったり、イメージを膨らませたり、『気』を発生したりするのですが、その機能がよく働いていれば脳機能の病気にはなりません。」
 朝は気血水すべてが経絡をたどって体に行きわたってから起きたほうがいい
「自律神経機能は、生体リズムと密接な関係があります。私たちに備わっているサーカディアン・リズム(約24時間周期で変動する生体リズム)を東洋医学的に解説してみましょう。
 まず、太陽が昇りはじめると体や頭が徐々にそれを感知して、はじめは経絡十二経脈の陰経から陽経を昇って、気血水すべてが行きわたります。その頃になるとだんだん目が覚めてきます。それがすべてに行きわたらないうちは、なんとなく手が強張ったり目が浮腫っぽかったりしますが、徐々に巡ってくるとだんだんすっきりしてきて、体が動き出します。このように経絡をたどって目が覚めるようになっています。その状態になってから起きたほうがいいんです。そして1日活動して夜に向かうと、今度は日中盛んに巡っていた気血水が逆に収まってきて、眠くなります。副交感神経が働いて、メラトニンが分泌されて、休む時間になります。真夜中12時頃の陰の極期には成長ホルモンの分泌が盛んになります。そしてレム睡眠(身体が眠っているのに、脳が活動している状態)が現れて、3時位になると太陽を察知して脳が動き出し、徐々に目覚めに向かうわけです。また、一日のサーカディアン・リズムと同様に、四季の変化に対応した生体の活動リズムがあります。」
 どの方剤を使うか、それを勉強するのが漢方の勉強
「患者さんには、食物のアレルゲンのことも伝えます。これはヒスタミンやセロトニンなど、かゆみのもとになる物質を出しやすい食品の一覧です。トマトが一番多いですね。また歯に金属が入っている場合には、26種類のパッチテストをします。ほかに香料のパッチテストもします。そうした検査結果を見ながら、症状が「腎」からくるのか、「肝」からか、「肺」「胃」の問題か、といったことも見ます。アレルギーが食べ物から来ていたら、胃腸の方の方剤。そうでなければ消風散、柴苓湯、茵陳五苓散、温清飲とかね。どこに原因があるかで方剤が異なります。たとえば胃腸疾患で口から入って出てくるまでの状況に応じて、詰まっていたら上から調胃承気湯、もうちょっと下にいっていたら大承気湯、女性なら桃核承気湯といった承気湯類とか。肝、腎が関係している時は茵陳五苓散とか、海老を食べて症状が出たなら香蘇散とか。どの方剤を使うかが問題で、それを勉強するのが漢方の勉強なんです。」
(インタビューの全文は、本紙491号の第1面、2面および3面をご覧ください)


"閉鎖型植物工場の甘草栽培"公開
セミナー会場で講演も

 昨年11月24日(水)から3日間、幕張メッセ国際展示場にて開催された「アクロ・イノベーション2010」(日本能率協会主催)では、話題となった甘草の水耕栽培を手掛けた鹿島建設が出展し、実物を展示したほか、特別セミナーのセッションで講演を行うなど、農業・園芸生産技術、青果物流通・加工技術などの関係者に向けて公開した。
 同社は医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターならびに千葉大学と共同で「甘草」の水耕栽培の研究開発プロジェクトを進めている。特別セミナーでは、同社エンジニアリング本部の澤田裕樹氏が、同社の植物工場分野への取り組み全般を説明する中で、それについても解説した。
 今回の水耕栽培による甘草の特徴は、栽培する水に、特定の養液を用いることにより、通常の圃場栽培では4年以上かかるところ1年から1年半という短期間での大量生産が可能となっていることと、有効成分のクリチルリチン含量が3%以上と、日本薬局方の「2.5%以上」の基準を満たしたことだ。優良苗は、医薬基盤研究所薬用植物センターが保有する甘草から選抜に成功し、1本の苗から約4ヵ月で数十本のクローン苗を増殖する方法も開発した。
 セミナー会場では、苗の増殖や育成、栽培、収穫、加工調整、出荷などのノウハウや運用サービスなどについて同社スタッフが解説。消費者価格に見合う生産の実現も、運用の鍵となるようだ。
(詳細は本紙491号に掲載)


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