編集/発行・漢方医薬新聞社 

496号(11年5月20日発行)〜500号(11年8月25日発行)

       

「か細いものを継承するだけでは……」
伝統医学セミナー

 「伝統を継ぐ人々」とのテーマで聞かれた今年の伝統医学セミナー(第62回日本東洋医学会学術総会)では、4人の演者が講演。座長の竹田眞氏(竹田眼科)が司会をつとめ、講演後に寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)が演者らに質問を投げかけた。

 ●演者の1人、平崎能郎氏(千葉大学大学院)は、「桂枝去桂加茯苓白朮湯は“桂枝を抜き去った”ことを方剤名としている。桂枝がないのに“桂枝湯”としたのは、臨床上の注意が必要な部分を強調するための先人のメッセージではないか」とする自身の知見を発表した。
 桂枝を抜き去る理由のひとつに、桂枝は、健常な生理においては「気」を上に引き上げるが、病理的経路では下げる作用がある。「気」は内から外へ流れるのが正常だが、裏寒により潜在する水毒がある場合には、生理的な「気」の運行の流れを妨げ、内に滞った「気」が病的な経路を経て上昇する。こうした気逆(発熱、激しい頭痛、下痢などが出現)に、桂枝を抜いた「桂枝去桂加茯苓白朮湯」が有効に働くという。
 ●他の病院で西洋医学的治療を受けているがん患者に対し、中医学の弁証論治に則った治療を併施している清水雅行氏(清水内科外科医院)は、急逝した父から引き継いだ患者のうち、卵巣がん術後の54歳女性が肺転移がありながら5年たっても元気で、「これが東洋医学の力か」と衝撃を受けたという。
 発表では、すい臓がんの73歳男性が高侵襲手術(膵頭十二指腸切除術)にも拘わらず、術前に中医学的治療を施行して1ヵ月あまりで退院し、担当外科主治医から「本術式でここまで早期に状態(栄養なども)が回復した例はあまり経験がなく、先生の処方に驚いている」とのコメントが寄せられた症例や、すい臓がん術後、肺・脳に転移した50歳男性が6年生存し、2度の肺転移手術を可能にしたなど、世界的にも報告がない著効例が紹介され、治療の根拠や用いた生薬、考察が示された。
 ●関信之氏(日本伝統鍼灸学会)は、形状の異なる九種類の鍼である「九鍼」を画像で示し、解説した。関氏によると「太い鍼でないと出せない効果がある」とのことだが、日本では細い鍼のほうが刺激が弱いと信じられていて、刺激が強い鍼や、太い鍼は、患者に敬遠される傾向があるという。有用性を高めるためには、鍼に対する正しい理解が広まる必要もあるようだ。
 「九鍼」については①即効性があり効果が持続するなど、臨床上極めて実用的で、救急治療も可能、②即効性があるので、漢方薬の補完に最適、③西洋医学に基づいた鍼灸の運用は限界がある、とまとめた。今後の展開として「伝統医学(漢方・鍼灸)が主、西洋医学が従となるような臨床主体の場所をもっと増やしてもいいのでは」と述べ、「そのような施設がないと、国民の認知度を高めるのは難しい」と言及した。
 ●「漢方医学は、急性病にも慢性病にも有効で、養生、気血水など、西洋医学にないアプローチが効果を発揮する」と述べるのは、田原英一氏(飯塚病院東洋医学センター)だ。演題の「漢方医学を伝える」については、処方の応用の見直し、古い処方の再発掘、理論の再構築を重点項目としてあげた。たとえば、鼻を“消化管の脇道”と捉え、つわりや胃内停水に用いる「小半夏加茯苓湯」を鼻の症状に応用できることなどを伝えていくと、「広がりが出る」と述べた。
 また、漢方の病態概念と治療領域を説明する工夫の例として、鰓(エラ)の名残の「鰓弓」と「半表半裏」の症候が一致し、とくに迷走神経の支配領域と小柴胡湯証が似ていることに気がついたとして紹介。理論の再構築については、「藤平健氏(併病理論)や小倉重成氏(潜証理論)などの傑人の業績は、“確固たる知識と技術”があればこそ」と言及。緒方洪庵を「自分の火を弟子たちの一人一人に移し続けた」と評した司馬遼太郎の文言も紹介した。
(詳細は本紙501号に掲載)

和漢医薬学の最前線
第28回和漢医薬学会学術大会
最新の研究成果の発表と情報交換の場に

 本紙前号で既報の第28回和漢医薬学会学術大会について、今号では大会長をつとめる嶋田豊氏(富山大学大学院医学薬学研究部漢診療学講座)に大会の見どころをうかがった。

——今大会のプログラムには、どのような狙いがありますか。
嶋田 和漢医薬学会の特徴は、薬系、医師、薬剤師、基礎研究者、臨床研究者と、幅広い会員がいることです。ですから今大会のテーマ「和漢医薬学の最前線」は、特定の領域や疾患にテーマを絞らず、最新・最前線の研究成果の発表と情報交換の場として機能することを目指しました。まず、特別講演では海外の最新情報を盛り込むべく、北京大学で生薬学を専門に研究されている蔡少青先生に生薬の品質評価に関する講演をお願いしました。もう一題の特別講演は、韓国・慶煕大学の曺基湖先生(韓医)にお願いしました。韓国では、脳血管疾患の急性期に対して韓医学が用いられており、その最新情報を発表していただきます。
——シンポジウムでは4つのテーマからの発表がありますね。
 嶋田 和漢医薬学の「基礎研究」と「臨床研究」、さらに「生薬、天然薬物」、そして「漢方医学の卒前・卒後教育、人材育成」に関するシンポジウムです。研究者をいかに育成していくかについても、討論される予定です。ほかにポスター発表の一般演題があり、その中から優秀発表賞を設けました。40歳以下の優秀発表者は、口演も行います。ポスターと口演の発表を総合的に審査して受賞者を決定します。29演題がエントリーされています。
 また今回は、「特別報告」として、ジェイロム(JLOM/日本東洋医学サミット会議)の取り組みとして、伝統医学に関する国際標準化の動向を、前議長の寺澤捷年氏が報告します。最近、中国が中医学を国際標準化しようとする動きがあります。日本の漢方医学も韓国の韓医学も中国の医学を起源にしていますが、独自に発達してきた経緯があり、中医学が国際標準となると問題が生じます。和漢医薬学会の中には、そのことを承知でない会員も多数いるので、今学術大会で発表の場を設けました。
——市民公開講座は、男女別に漢方医療の講演がなされますね。
 嶋田 200名の定員ですが、現在すでに120名の応募があります。当日参加もあるので盛況になるでしょう。ランチョンセミナーはツムラと小太郎漢方製薬が共催します。病院・開局薬剤師のための漢方講座は、昨年の京都の大会でも大好評だったので、今年も開催します。
 今年は、東日本大震災や原発事故の影響で中止になった学会も多かったのですが、当会は、皆様のご協力、ご支援で開催することができます。是非全国から来ていただけれぱと思います。
(詳細は本紙500号に掲載)


患者に寄り添える漢方薬学の構築にむけて
——2011年臨床漢方薬理研究会(第106回)

 7月17日(日)、京都薬科大学において2011年臨床漢方薬理研究会(代表世話人・日置智津子東海大学医学部講師)が開かれ、全国から研究者、薬剤師、医師ら約200名が参加した。テーマは「漢方薬学の構築にむけて」。翌18日(月)には、「統合医療を推進するための日本伝統医学の標準化にむけた検討会——アジアにおける伝統医学の展望」が併催された。
 日置氏は挨拶の中で「私たちが取り組んでいる日本の伝統医療の漢方が、科学的見解や近代的視野のもとに地域医療に浸透して、多くの市民の健康管理に活用できる体制にするのにはどうすればいいのかを考えたい。特に漢方薬学の構築は、現在の近代医療システムの中で、医薬連携、薬剤師の職能の展望という視点で重要な鍵を握る」と語った。
 大会では、日本薬剤師会副会長の前田恭則氏(マエダ方剤薬局)が「薬局漢方製剤と薬剤師」と題して、 薬局薬剤師が果たす役割について述べた。
 筑波大学人間総合科学研究科スポーツ医学専攻の正田純一氏は、「菌蔯蒿湯の薬効と分子メカニズム」について述べた。菌蔯蒿湯の薬効とメカニズムの解明を続けてきた正田氏は、「ラビット及びヒト肝においても菌蔯蒿湯および生薬成分であるgenipinの投与は、胆汁分泌を強力に促進していた。これには転写因子Nrf2を活性化して肝輸送タンパクの発現誘導を促進する働きであることが明らかになりつつある」としている。
 また、「日本漢方の新展開に活用される台湾伝統医学」と題して講演した宮崎瑞明氏(恩明会塩浜宮崎医院)は、「日本漢方の方証相対の利点は享受しながらも、患者さんによっては弁証論治の応用も考慮することで、漢方診療のレベルは向上するはず。生薬の薬性・薬効の理解を深めるととともに質の高い単味生薬エキスの供給が必要になってくる」と述べた。
 その他に東海大学医学部東洋医学講座の新井信氏、昭和薬科大学病態科学の田代眞一氏、武蔵野大学薬学部の油田正樹氏、京都薬科大学の松田久司氏、古川雅之氏らから報告があった。
 世話人の日置氏は「医師、看護師、薬剤師が患者と寄り添える医療、それには個人個人の資質の向上、システムの改善などの他に、人を丸ごと診る医学、心身一如の漢方医学が役に立つはず」と語ったのが印象的だった。
 翌日の7月18日は「アジアの伝統医学の展望」と題して、中国、台湾、韓国の医学事情の現地調査の報告に続き、日本の伝統医学はどうあるべきかについて議論された。
(詳細は本紙500号に掲載)

第28回和漢医薬学会学術大会
中・韓から特別講演2題
 国際的視点に学ぶ「和漢医薬学の最前線」

  8月27日(土)・28日(日)の2日間、富山県民会館(富山市新総曲輪)において、第28回和漢医薬学会学術大会が開かれる。今回は、「和漢医薬学の最前線」をテーマに、中国と韓国で活躍している天然薬物、伝統医学関連の研究者2氏を招聘し、国際的な視点からの講演が行われる。
 初日は、済木育夫氏(富山大学和漢医薬学総合研究所所長)の座長で、北京大学医学部の蔡少青氏が中薬(漢方薬)の品質評価の最近の状況や研究成果について、三七人参や麻黄などを例に挙げながら報告する。2日目は、寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)の座長で、韓国・慶煕大学の曺基湖氏が脳血管疾患に対する漢方薬の有用性をテーマに講演の予定。
 学会賞は、大阪大谷大学薬学部の奚谷忠人氏が、学会奨励賞は大分大学医学部附属病院薬剤部の佐藤雄己氏と、北里大学東洋医学総合研究所の早崎智幸氏がそれぞれ受賞。初日には講演も行う。
 市民公開講座は、初日の14時から16時に同会場内で開かれる。福澤素子氏(表参道福澤クリニック)が「女性と漢方」、花輪壽彦氏(北里大学東洋医学総合研究所)が「男性と漢方」をテーマにそれぞれ講演。性差に着目した伝統医療をわかりやすく解説する。座席があれば、当日も受け付ける。
 「病院開局薬剤師のための漢方講座」は、毎年人気が高く、参加者が列をなす講座だ。今回は、富山で医療従事経験のある5氏が、2日目の13時半から16時半にわたって講演する。
(詳細は本紙499号に掲載)


「漢方を熱く語る会」開催
歴史的記述の堀り下げ堀り起こし

 第62回日本東洋医学会学術総会の2日目にあたる6月11日(土)21時より、札幌市内のホテルにおいて「漢方を熱く語る会」が開催された。
 第1回は昨年の第61回同学術総会期間中に名古屋で開催され、中田英之氏(練馬総合病院漢方医学センター・健康医学センター)が世話人をつとめている。
 第2回目となる今回は、岡田研吉氏(岡田医院)が、「北宋代の古方の認識と、痰飲『傷寒論』の病態本草学「川芎・白芷・地黄」」、松岡尚則氏(静岡県立こども病院)が「災害と思想・社会の変化—古方、近代科学の発生」、秋葉哲生氏(あきば伝統医学クリニック)が「江戸時代の漢方医—尾台榕堂とその医案」と題してそれぞれ講演した。
 当日は、漢方に通暁した医療関係者ら60人余りが参集。飲食自由で、参加者と演者との距離感が近く、講演の途中で質問や意見が飛び交うリラックスムードの勉強会だった。講演では、古典医書の原典や歴史的医家の業績、医学成立の歴史的背景の堀り下げ、堀り起こしを行うとともに、今日的意義を考察した。(詳細は本紙499号に掲載)


製剤実習が活況 第21回漢方総合講座

 日本漢方協会が主催する第21回漢方総合講座は7月31日(日)、漢方薬局製剤実習講座を実施し、120名が参加した。煎じ薬、丸剤などを薬局で利用者に供することができる形に調剤し製剤化するこの実習には高い人気があり、毎年多数の参加者が受講している。
 実習前のオリエンテーションでは、講師の三上正利氏が製剤の特徴や添付文書の記述の仕方、製品への貼り方、製造記録の作成方法について、薬事法に基づいた注意事項を解説。今井淳氏が、この日の実習製剤の安中散と八味地黄丸の作成手順を説明した。
 実習は12班に分かれ、各班に指導者2名が付いた。ほとんどが薬局の経営者や従事者など。参加者の中には調剤キャリアの長い人がいて、その熟練した分包手さばきに初学者が見習う光景も見られた。
 安中散は構成生薬が配合された散剤をふるいにかけて計量し、分包後に分包機で封かんした。八味地黄丸は、配合された散剤に蜂蜜を加えて1時間ほど練ってから形成する。地黄が配合されることで粘りが強くなり、体重をかけ、体全体の力を利用して練りこんでいた。
 練り終えると、専用の木工用具を用いて、小分けにしたものを細長い5ミリの円筒形に伸ばし、数個に切り分けのできる専用カッターで一粒の大きさにした後、木工用具で丸く形を形成して仕上げられた。
 これまで薬剤師の基本のひとつとなっていた薬包紙の包み方や薬さじの扱い方などの手技は、自動分割分包機など調剤器機の導入により身につけにくい現状にあるようだが、こうした実習の意義は、ますます大きくなっているようだ。
(詳細は本紙499号に掲載)


第62回学術総会盛会に終了
石川友章新会長でスタート
医学生からの多彩な調査研究発表も

 第62回日本東洋医学会学術総会(大塚吉則会頭・北海道大学大学院教育学研究所教授)が、札幌コンベンションセンターで6月10日〜12日の3日間にわたって行われた。今回は会長の寺澤捷年氏が1期(2年)で退任し、新会長に石川友章氏が選出された。
 会期中の会場では、名誉会員の称号記授与式が行われ、佐藤祐造氏(愛知学院大学客員教授)と、広瀬滋之氏(故人・広瀬クリニック前院長)が授受。広瀬氏の称号記は同氏を引き継いだ木許泉氏(同クリニック院長)が代理で授受した。
 大会中のプロクラムのうち、10日(土)に行われた医学生のポスターセッションには、多くの聴者が参集した。
 旭川医大「漢方研究会」は、生薬国産化の現状について、頻用される医療用漢方製剤の構成生薬に焦点を絞り、北海道と他の地域に分けて調査し、今後の可能性を探った。
 札幌医大「IFMSA伝統中医学研究会」は、漢方外来のない同附属病院において、来院患者が漢方力剤やサプリメントをどのように捉えているのか、アンケートによる意識調査を医師と協力して実施した。
 北大「東洋医学研究会」は、医学部医学科の2年生から6年生にわたり東洋医学に対する意識調査のアンケートを実施。講義内容やカリキュラムの組み方、教科書作成に関する日本東洋医学会への提言など、学生の要望が前向きに発信された。国家試験の出題と学習意欲には強い関連が見られなかったことも報告された。
 神戸大「東洋医学研究会」は「はらのむし」をテーマに発表。「虫の居所が悪い」「虫唾(虫酸)が走る」など、「虫」と気分、行動との関係について、歴史的資料などをひもとき調査した。
(詳細は本紙498号に掲載)


「日本鍼灸」高らかに宣言

 (社)全日本鍼灸学会第60回学術大会(後藤修司会長)と日本伝統鍼灸学会第39回学術大会(形井秀一会長)が共催した「2011鍼灸学術大会in東京」(久光正会頭・昭和大学医学部教授)が、6月19日(日)、東京有明医療大学(東京・江東区)で開かれた。
 「新たなる医療へーーー心と身体をみつめる日本鍼灸の叡智」と題した今大会の最終プログラムでは、「日本鍼灸に関する東京宣言」が提言され、会場の拍手をもって採択された。
 草案は後藤氏、形井氏ほか関連分野18人で構成された「日本鍼灸に関する東京宣言起草委員会」が昨年初頭から討議を重ねたもので、壇上の形井氏は「発表直前まで手を入れた」と報告。今後、各国政府、関連団体などに向けて発信される。

(詳細は本紙498号に掲載)


第62回日本東洋医学会学術総会
「自然との調和〜北の大地から〜」

 6月10日(金)から3日間、札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)で開催される第62回日本東洋医学会学術総会は、開催地に相応しく「自然との調和」がテーマとなっている。会頭をつとめる大塚吉則氏は、代謝内分泌を専門とする臨床医で、漢方専門医。温泉医学は、漢方より長く研究してきた。今号では、今大会の見どころとともに、会頭講演のテーマでもあり、「温泉気候医学」とも呼ばれる温泉医学について知るべくお話をうかがった。

 大塚「温泉を研究するようになったのは、北大病院の登別分院に赴任したのがきっかけです。そこには温泉治療の研究施設がありました。登別分院は温泉街から20分ほどの、海に近いところにあり、5年間勤務していました。その間に、3カ月ほどミュンヘン大学の温泉研究施設に留学し、入浴が体にどんな影響を与えるのかを調べました。自分の専門領域(代謝内分泌)と、温泉の治療効果を結び付けて研究してみようと考えたのです。」
 「糖尿病の患者さんは、病院の屋内で治療するよりずっと早く改善するんですよ。環境がいいからです。自然環境がいいと、患者さんの治療に向かうモチベーションが高くなる。『やる気』を起こしますね。運動療法に対する動機づけがずっと高まります。豊かな自然の中で、温泉プールでの運動浴と、屋外での運動をします。病院の廊下を歩いたり階段を上り下りしたりするより、よほど気分がリラックスするんです。温泉医学は、『温泉気候医学』と言われるように、自然環境の影響も含めて研究をする必要のある分野なのです。」
 「『養生訓』には、病気療養の目的で温泉入浴する場合の1日の入浴回数や、入っていい症状、悪い症状などにも記述が至っています。必要な場合には薬を飲み、ご飯も食べて入浴する云々といったことが書かれています。」
 「東洋医学については、日本では保険医療の中で施療することが可能になっていますが、温泉療養のできる病院をつくるとなると、ことはそう簡単には行きません。温泉医学を教えている大学もほとんどありません。」
 「大会はすでに盛り上がりを見せており、多数の事前登録をいただいております。当日は多くの先生方にご参加いただきたいと思います。」
(詳細は本紙497号に掲載)


縄文文化に学ぶ"漢方の科学性"
特別講演『漢方の有する科学性について』
インタビュー 北大前クリニック 本間行彦氏

 札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)で開催される第62回日本東洋医学会学術総会で6月11日(土)の特別講演を受け持つ本間行彦氏にお話をうかがった。

 本間「私は古代史に興味があり、縄文・弥生時代のことを研究していました。もともと宇宙物理学に興味があって、地球の歴史を追いかけていたところ、縄文時代の人々の食生活の中に、今の漢方の原点があるとでも言いましょうか、原料生薬を薬としてではなく食材として食べていたことがわかったんです。上野原遺跡(鹿児島)は、9500年ほど前の人々の暮らしを垣間見ることができます。10㎝角ほどの石を何個も利用した『集石』と呼ばれる炉では木や藁を燃料として石を焼いたあと、燃えカスを取り払い、バナナの葉などに包んだ動物の肉を焼いた石にのせて土をかけ、蒸し焼きにするんです。食べた人によると、『一生に一度は食べなさい』というほど美味しいそうです。縄文時代の人はグルメだったんですね。ほかに何を食べていたのか、文献を調べてみると、柴胡加龍骨牡蛎湯の原料になっている動物の骨や貝殻を食料として食べていたことがわかりました。なんと10万種を食材として利用していたというのです。」
 「遺跡をどんなに掘っても、動物の骨が出土しないのは、すべて食べてつくしているからだそうです。いまの漢方薬の原料生薬はすべて食べ物だった。それが『漢方は科学である』と断言し得るだけの答えにつながりました。そのことを今回の講演で詳しくお話します。」
 「漢方は全国的に盛り上がっていますが、大学レベルではまだ一人前と認知されているわけではありません。教授会で漢方の話をすると『科学ではない』として受け入れられません。一般の医師の中での漢方の地位も低いという現実があります。学生に対する講義は増えましたが、まだまだ市民権を得ていないと言っても過言ではない。理由は『漢方は科学でない』の一言です。私は漢方を始めてから35年ほどになりますが、常に『漢方の科学性』を証明しなければならないと感じてきました。そうでなければ漢方の真の普及はあり得ないという信念が生じました。その時に言えることは、『科学でないものが、なぜこれほどまでに有効なのか』ということです。」
 「科学とは何か……を問うていくと、推計学に行き当たります。EBMの根底ともいえる数量化理論で、棄却限界値(有意水準)が通常0.05以下でないと科学ではないというものです。ところがこの基準値は、経験的妥当性が何となく約束事になっているに過ぎません。推計学上の正規分布やt分布と呼ばれる連続確率分布の『95%の信頼区間に相当する』というだけで、非常に曖昧なものです。前提となっている正規分布は、現実にはあり得ないもので、ほんの片隅を削り取ったものが分布を形成している場合もあります。」
 「漢方の『証』は、症候を統計学的に分類して記述したもので、多変量解析のクラスター分類に相当します。ものすごい多数の症例を経験しながら『証』を作り上げてきたんです。『科学哲学』の立場から見ると、漢方はまさに科学なんですね。特別講演では、漢方は非常に大きな科学であるということをお話しします。」
(詳細は本紙497号に掲載)


「桔梗」発芽していた。
津波に負けぬ「秋の七草」 1本のみ観察

 津波の被害にあった宮城県の桔梗の自生地(前号既報)の状況を、田口哲之氏(仙台市・泰生堂薬局)が報告した。4月に出向いた際には、立ち入り禁止で近づくことができなかった。5月8日(日)に訪れた際には解除され、もとの自生地付近をくまなく観察したところ、7センチほど発芽した桔梗が1本だけ観察された(写真)。茎は紫色で、紫の花をつける桔梗だという。今後も観察が継続される。
 津波は、桔梗が自生していた小高い山の、自生地のちょうど上のあたりまで押し寄せた形跡があり、緑の草木がはげ、付近の高い木にゴミが引っかかっているなど、惨状を物語っていたという。
 海岸には重油や化学薬品などを取り扱う工場等がなく、発芽にはそうしたことも幸いしていたようだ。「桔梗の太い根が残っている可能性があり、これから発芽するかもしれない」と田口氏。
 今年の宮城地方は寒く、植物の芽吹きが遅いが、7センチは、自宅の桔梗より成長が遅目だという。今後の報告に期待したい。


売上伸長、ラオスの生薬栽培地に中学校校舎建設
ツムラ決算報告会

 5月13日(金)に(株)ツムラ本社ホールでツムラ決算説明会が開催された。芳井順一社長が東日本大震災の被災者に対する見舞いと犠牲者ならびに遺族に対する哀悼の意を表した後、次のような報告があった。
 同社茨城工場は地震発生当初から操業停止となったが、5月10日に操業を再開。不足気味だった小包装も6月初旬には潤沢に流通する予定。震災による特別損失は5億3千万円と見込んでおり、茨城工場の設備損失額を含めても総額10億円を下回る見通し。
 ‘11年3月期の決算は、売上高、利益ともに計画を上回り、売上高947億7千8百万円、営業利益215億5千3百万円、経常利益217億2千5百万円、当期純利益129億4千5百万円、営業利益率22.7%で増配(1株あたり58円)となった。
 次年度3月期の業績予想については、売上高1千4億円、営業利益234億円、経常利益236億円、当期純利益136億円、営業利益率23.3%、1株当たりの配当は60円と試算した。
 米国での大連中湯(TU‐100)の研究開発においては、患者を対象とした臨床試験(フェーズⅡ)と、薬物動態試験、腸内細菌の基礎研究を今年度新たに実施。甘草の栽培研究(前号で詳報)にも触れ、「10年にわたる栽培研究の成果」として、中国国内の使用許諾が無償であることを強調した。
 ラオスでの生薬栽培および調整加工(ラオツムラ)は、現在の200ヘクタールを将来的には1千ヘクタールに拡大する計画。また、同栽培地のあるポーケム村からの依頼に応じて「ポーケムツムラ友好中学校」の校舎建設に協力し、今年3月29日に竣工式が行われた。芳井社長も現地に赴き、サッカーゴールや靴、制服なども寄付し、子供たち一人ひとりと握手を交わしてきたという。
 同校はラオツムラの自社農場に隣接しており、「中学校の完成は地域の教育体制の充実に貢献するとともに、ラオツムラ生薬栽培事業への理解につながるもの。ラオスにおける生薬事業を推進するにあたり、ラオツムラの自社農場周辺地域の住民の雇用確保や地域貢献活動を通じ、ラオツムラと地域住民の友好関係がさらに発展できるよう努力していく」としている。
(詳細は本紙496号に掲載)


更年期障害に対する漢方治療
第112回漢方医学フォーラム

 マスコミ向けのセミナー「第112回漢方医学フォーラム」が3月3日(木)、日比谷プレスセンター(千代田区)で開催された。今回は久保田俊郎氏(東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・生殖機能協関学教授)が「更年期障害に対する漢方治療の最新の知見〜更年期女性の不眠症に対する漢方薬の効果〜」をテーマに講演。更年期障害に効果のある漢方方剤を「三大処方」と称し、有用性を紹介した。
 久保田氏によると、閉経前後5年(平均45〜55歳)の「更年期」には、「エストロゲン」の分泌が低下するという。エストロゲンは、排卵や妊娠だけでなく、骨、乳房、皮膚、脳・中枢神経、循環器、生殖器に働く女性ホルモンで、分泌が低下すると、汗が出たり火照ったりするなど、「更年期障害」の主な要因となる。また、エストロゲン分泌低下はコレステロール値を高くするため、肥満、高脂血症、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中を起こしやすくなる。骨ももろくなり、60歳頃になると骨粗鬆症になりやすい。
 久保田氏は、「更年期障害の治療は長期にわたるため、副作用の頻度の少ない漢方方剤は治療に適している。ホルモン療法はホットフラッシュや発汗などの運動血管障害によく効くが、多彩な症状を呈する不定愁訴には不十分。漢方は自律神経失調症、精神神経症状、うつ病など、広範囲に効果がある」と述べ、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を更年期障害の「三大処方」として紹介した。
「実証には桂枝茯苓丸、虚証には当帰芍薬散、中間証には加味逍遥散と使い分けている」という久保田氏は、「証をあまり神経質に考えず、実証、虚証、中間証の3タイプに当てはめて処方する。虚証は、痩せて冷えがあり、なよなよした虚弱体質。実証はパワーがあり固太りでのぼせがある。中間証は中肉中背で主訴が次々に変化する。加味逍遥散はそのような精神的に悩ましい人に向く。わからない場合は加味逍遥散を投与し、効果が出なければ次を試す」と、自らの投薬の仕方を紹介し、「心身一如を基本とする漢方治療は、心身相関により様々な症状を呈する更年期障害に適した治療法」と結論付けた。
(詳細は本紙496号に掲載)



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