編集/発行・漢方医薬新聞社 

509号(12年1月1日発行)〜519号(12年7月15日発行)

       

方証相対と随証治療を討論
日本東洋医学会学術総会(京都)伝統医学臨床セミナー
日本漢方のあり方を討議

 第63回日本東洋医学会学術総会の初日(6月29日(金)、国立京都国際会館)に開かれた伝統医学臨床セミナーは、「日本漢方は方証相対か」をテーマに山崎正寿氏(聖光園細野診療所広島診療所)と平馬直樹氏(平馬医院)が座長をつとめ、三谷和男氏(三谷ファミリークリニック)、花輪壽彦氏(北里大学東洋医学総合研究所)、寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)の3氏がそれぞれ講演。総合討論では会場との意見交換が活発に行われた。座長の山崎氏は「日本漢方のあり方を十分に討議する」と述べた。
 各演者の講演に先立ち、座長の平馬氏が曲直瀬道三の察証弁治から今日までの日本漢方の流れを概説してスタート。
 三谷氏は、漢方医学の「診断即治療」といわれる「即」の部分、つまり「証の吟味」のあり方について提言。「人間の身体の仕組みを『ブラックボックス』にすべきではない」「先人の試行錯誤を知ろうとせず、結論のみを鵜呑みにしていないか」「可能な限り分析し、自ら検証すべき」と指摘した。
 花輪氏は、日本漢方の特質として『鍵と鍵穴』に例えられる "方" と "証" の相対は必ずしも堅固でなく、 医家たちは、共有できる普遍的な方剤使用原理をベースとして、"融通無碍" な活用を図っていると考察した。
 寺澤氏は、「現在の日本漢方は、吉益東洞の方証相対論を基調としている」と明言。江戸中期の医学者である東洞が提唱した方証相対の本質を「①方剤を六病位や病門から解放し、一つの独立した容(かたち)をもつものと認識。②方剤が解決する毒の容(かたち)(方意)を自得し、患者の腹候や体表部の毒の容(かたち)(証)と符合させ、該当する方剤で毒を駆除する」と2項にまとめ、「すなわち "方と証" は相対する」と解説した。
 総合討論の冒頭、座長の山崎正寿氏は、「吉益東洞の治療原則」について「毒」の解釈に焦点を当て、「証の背景には因(病因)がある」「因は毒を指している」として、東洞が病因の存在を認識していることを強調した。
 総合討論では三谷氏が、方剤選択のプロセスを西洋医学的な手法で検証する意義を改めて述べると、寺澤氏は「日本漢方は、思弁的な方法で論じるべきではない」と述べ、三谷氏に協調。花輪氏は寺澤氏に対し、「東洞は、たとえば方剤から石膏を抜いたり、生薬単位の薬効の追及も行っている。『方の容(かたち)を追及した』とする寺澤論と矛盾しないか」と質問。寺澤氏は、「東洞は『薬徴』に成功し、『方極』に失敗した」と答えた。
 会場からも活発な質問が寄せられた。なかでも「日本の漢方医は、西洋医学的なレベルにおいて優れている。一方で、漢方医学を学ぶスタート地点がエキス製剤の医師は、処方の的が外れていたりする場合が多いと聞く」と発言した質問者に対して、寺澤氏が「日本の優位性は、漢方医が西洋医学の医師であったり専門医だということ。その知見で漢方の臨床を検証できるのが強み」と回答するなど、充実した質疑応答が繰り広げられた。
(詳細は本紙519号に掲載)




糖尿病食事治療の選択肢に
第63回日本東洋医学会学術総会市民公開講座
「糖尿病・生活習慣病と糖質制限食」

 今回で13回目を数える同講座は、6月29日(金)から3日間にわたり行われた学術総会のフィナーレを飾るように、7月1日、午後2時30分より開かれ、地元京都の高尾病院理事長の江部康二氏が「糖尿病・生活習慣病と糖質制限食」の演題で、1時間半の講演を行った。
 日本の糖尿病の患者数は約740万人、予備軍を含めると1620万人と言われ、対策が焦眉の急となっている。江部氏自身も02年に糖尿病が発覚。糖質制限食という新たな考え方で、糖尿病を克服した経緯やアメリカなど海外の動向、高尾病院における治療実績等を交え、論を進めた。
 従来の食事療法はカロリー制限食が基本で、脂肪悪玉説が流布されていたが、本年5月18日、第55回日本糖尿病学会年次学術総会において糖質制限食が糖尿病食事療法の選択肢の1つとして容認された。江部氏はこの点に触れ、「(糖質制限食は)1日130グラムというしばりはあるが、カロリー制限一辺倒からの歴史的転換」と胸を張った。
 糖質制限食は、血糖値を上昇させる糖質を制限し、タンパク質を中心に摂取することで、血糖値の急激な上昇を避けることを目的としている。江部氏は、カロリー制限食と糖質制限食の比較、糖質制限食の対象、糖質制限食の利点等について概説し、「糖質制限食なら食後高血糖・高インスリン血症はなく、肥満も改善する」「糖質制限食の実践により、全身の代謝・血流が改善する」「糖質制限食は肥満・糖尿病・生活習慣病の治療・予防食である」「糖質制限食は進化過程700万年の本来の食事であり、人類の健康食である」などと語った。
(詳細は本紙519号に掲載)




第64回日本東洋医学会学術総会
東洋医学発展の道探る
「人材の発掘と育成」テーマに

 6月29日(金)から3日間、国立京都国際会館で開かれた第63回日本東洋医学会学術総会は、3500名あまりが参集し盛会となった。今回は、大会会頭の中田敬吾氏(聖光園細野診療所)の肝いりで、裏千家15代家元の千玄室氏が講演。会館敷地内の茶室「宝松庵」には「今日庵」と呼ばれる呈茶席が設けられ、参加者に一碗が呈されて賑わった。大会初日には、開会式直前に企画されている恒例のサテライトシンポジウム(ツムラ/クラシエ薬品共催)は今年も満場となり、大会の盛り上がりを感じさせていた。
 開会式直後に2つの会場でスタートしたプログラムのうち、シンポジウム1「皮膚粘膜疾患と補陰の治療」では、皮膚および身体の粘膜を潤すことで疾患を治癒に導く治療法が提示された。講演では、麦門冬湯、養胃湯、益胃湯など、麦門冬を含む方剤の用い方が数多く提示されたほか、駆瘀血剤との併用の仕方なども紹介された。花粉症などのアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎だけでなく、帯状庖疹後疼痛、口内炎、歯周炎、シェークレン症候群、季節的な咽頭痛、食欲不振、腹痛、膀胱炎など、さまざまな疾患治療に焦点が当てられ、皮膚と粘膜を上手に治療することで、全身の症状が改善されることが示唆されたセッションとなっていた。
 もう1つの会場の「伝統医学臨床セミナー」では、「日本伝統漢方は方証相対か」をテーマに、山崎正寿氏(聖光園細野診療所広島診療所)と平馬直樹氏(平馬医院)が座長をつとめ、三谷和男氏(三谷ファミリークリニック)、花輪壽彦氏(北里大学東洋医学総合研究所)、寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)の3氏が講演。総合討論では、日本漢方のあり方と独自性をめぐり、会場も交えて活発な討論がなされた。
(詳細は本紙518号に掲載)




「未来の医学、東洋医学」
第16回国際東洋医学会学術大会

 来る9月14日(金)〜16日(日)の3日間、韓国ソウル市コエックス(COEX)にて第16回国際東洋医学会学術大会(ICOM2012)が開催される。大会テーマは「未来の医学、東洋医学」。韓国から1万2千人、海外から1千人の参加者が見込まれている。大会会頭の金正坤氏(Jeong Gon, KIM OMD, PhD)/韓医師協会会長)と、日本で聞かれた前大会の会頭をつとめた中田敬吾氏(聖光園細野診療所)が基調講演を行うほか、鍋谷欣市氏(昌平クリニック)が特別講演の演者として推薦された。今回は急きょ『吉益東洞の研究』を執筆した寺澤捷年氏(千葉中央メディカルクリニック)も、韓国の懇請で講演する。同著は韓国の研究者の注目を集め、すでに翻訳出版準備が整っているとのこと。韓国「傷寒金匱医学会」ほか、多くの研究者が注目しているという。
【問合せ先】ICOMホットライン(Eメールー: icom16jpn@hotmail.co.jp国際東洋医学会日本支部ICOM 16係)
(詳細は本紙518号に掲載)




伝統医学は「章」で導入
WHO国際疾病分類(ICD)

 国際疾病分類(ICD)の改訂作業が進められる中、5月に公開された改訂版(ICD-11)の改訂案で、伝統医学のための分類項目が最終章(第23章)に1章まるごと盛り込まれることが明らかになった。
 厚生労働省内での記者会見(6月27日)に臨んだ日本東洋医学会の石川友章会長は、「世界保健統計の基礎となるICDに伝統医学が入ることは、百年以上にわたる歴史上でも初めてのことで画期的」と報告。伝統医学の章が盛り込まれた理由について、石川会長は、①難病に対する伝統医学の治療効果、②西洋医学的な治療に比して安価な費用で治療効果を上げることのできる経済性の2点双方にWHOが注目した」と述べ、渡辺賢治同会副会長は「西洋医学は、病気に視点が置かれるため、病理学的な用語が中心だが、漢方医学は人間そのものに視点が置かれるので、体質や病状をあらわす用語が加わることになる。これまでの1〜22章と伝統医学の23章は相反するものではなく相補されるもの。たとえば、同じ病名の患者でも、重症度によって体の状態はかなり異なる。東西両医学の視点から見る分類がなされることで、より精緻な治療ができるようになる」と説明した。
 記者会見に同席した厚労省統計情報部国際分類情報管理室室長で、WHO国際統計分類協センター長を兼務する笠松淳也氏は、「これまでのICDの改訂作業には分類作業の専門家が多数を占め、使用者である医師の専門家が少数だったことから、構造体系は整理されているが現場に即さない面があり、『使いづらい』など批判の声が上がっていた。今回は、WHO全体の反省として『現場主義』のスタンスが取られ、専門家の数が逆転している」と改訂作業の特徴を紹介した。
(詳細は本紙518号に掲載)




第63回日本東洋医学会学術総会
「東洋医学の発展——人材の発掘と育成——」
百花繚乱のプログラム、「もてなしの心」ある大会に

 6月29日(金)から3日間、国立京都国際会館(京都市)で開かれる第63回日本東洋医学会学術総会は、「東洋医学の発展」をめざすべく「人材の発掘と育成」がテーマになった。会頭をつとめる中田敬吾氏は、京都市の聖光園細野診療所において研鑽を積み、長く診療を継続している大ベテランの漢方医だ。今号では、今大会のプログラムのコンセプトと見どころについて話をうかがった。現状において山積する課題や今後の動向、日常診療に密着したテーマなど、さまざまな企画がなされ、日本人の根底をなす心にも触れる。茶の湯の会が催されるなど、「もてなしの心」のある大会となる。(聞き手・編集部)

 ——今大会の会頭をおつとめになられる中田先生に、今大会のプロクラムについてうかがいます。
 中田「今回は、茶道裏千家の家元の千玄室大宗匠に特別講演をお願いしました。私の家内が千大宗匠の菫陽会というお茶会に参加しており、私は京都洛南ロータリークラブの「静友会」という茶の湯の同好会に加えていただいている関係で、千大宗匠と交流があります。」
 ——今回の会頭講演では、先哲の業績を取り上げられるのですね。
 中田「今回は、私が学生のころからお世話になり、薬の面でご指導いただいた後藤實先生の業績を紹介します。後藤先生を思い返してみると、戦後、漢方を復興していく中で、ご自分は前に出ずに多くの後進を育てました。国内での生薬栽培の指導的な立場にあり、後藤先生の手を通して日本でうまく栽培できるようになった重要な薬もあります。日本の漢方を、生薬という物質面から支えた方です。」
 ——安井廣迪先生も特別講演の演者ですね。
 中田「安井先生は、日本の漢方の歴史や、新しく発展した治療法、若手の動向、中国や韓国、世界の状況など、さまざまな方面を把握し、広い見識をお持ちです。臨床医としても優秀で、安井先生ほどの人物はなかなかいません。今後、漢方が進むべき道を示してほしいとの思いから、講演をお願いしました。」
 ——もう一題は、厚労省のWHOが主導する国際疾病分類(ICD)担当の情報管理室長が講演されるのですね。
 中田「今回改訂されるICD-11(国際疾病分類第11版)の中に、東アジアの伝統医学の疾病概念がはじめて盛り込まれました。歴史的にも画期的なことです。学会の本部から要請があり、特別講演での講演をお願いしました。また、今回の伝統医学セミナーでは、とても興味深い討論がなされるはずです。」
 ——今回のテーマは、これまでに見たことのない切り口のように感じられました。
 中田「山崎正寿先生に座長とテーマの決定をお願いしたところ、『方証相対』が取り上げられました。『日本伝統漢方は方証相対か』とのテーマを突きつけられると、方証相対や随証治療、弁証論治といった概念を自分はどう捉えていたのか、と改めて考えさせられます。また、演者のひとりの寺澤先生は古方の出身で、先ごろ『吉益東洞の研究』も出版されました。議論は大いに白熱するのではないかと期待しています。もうひとりの座長の平馬先生は、中医学も勉強しているので、ここに江部洋一郎先生が加わると、さらに激しい議論が期待されるかもしれません。」
 ——江部先生は、今回の教育講演の演者として、経方医学について講演されますね。
 中田「漢方医学は中国を源流として日本で育ちましたが、江部先生のように新しいものを作り上げた人は歴史的にも見当たりません。中国は、江部先生の経方医学を逆輸入しています。そのことを評価する意味でも、今回の教育講演をお願いしました。京都にこんなすぐれた医師がいるということを、皆さんに知っていただきたいのです。」
 ——もう一人の教育講演の演者の伊藤美千穂先生も、京都大学の方ですね。
 中田「若くてバイタリティーあふれる元気な女性ですね。もう一題の教育講演は、大友一夫先生にお願いしました。大友先生も魅力のある方で、日本の古典をよく読んでいます。治療に無理がないというか、和田東郭のような老中医の雰囲気を持っています。日本の古典を楽しめるような話をしていただきたいと考え、お願いしました。」
 ——薬用植物資源の演題もありますね。
 中田「原料の急激な値上がりが、深刻な問題となっています。薬学講座では、供給と開発など、生薬資源の問題を取り上げました。『緊急特別シンポジウム』では生薬供給の現状と課題について討議します。」
 ——今回は、学生のポスター発表も充実していて、20題もエントリーされたのですね。
 中田「学生発表のセッションは、広島の中島随象先生の直系の孫である中島正光先生が提案されました。優秀な発表については、閉会式で表彰することになっています。」
 ——百花繚乱のプログラムですね。
 中田「懇親会では、私の家内が日本舞踊を披露します。昨年の文化庁芸術祭で優秀賞を受賞しました。西川流では初めてのことだそうです。千玄室大宗匠が講演される30日(土)は、国立京都国際会館内の庭園にある茶室『宝松庵』でお点前が供され、家内もお手伝いします。ぜひたくさんの方にご参加いただき、楽しんでいただきたいと思っています。」
(詳細は本紙517号に掲載)




“サイエンス漢方処方研究会”立ち上げ
現代医学の質の飛躍的な向上めざす
「医師の誰もが積極的、効果的かつ安全に用いる」を可能にするために

 さる3月18日(日)、サイエンス漢方処方研究会設立記念「芍薬甘草湯シンポジウム」が名古屋市の安保ホールにて開催され、55名が参加した。今回は、"エビデンスデータに基づいた芍薬甘草湯の臨床応用を探る"という副題の下、これまでの研究や症例報告を包括し、伝統医学・現代医学の双方向から芍薬甘草湯を解き明かし、医師の誰もが臨床応用を可能にすることをめざした。
 このシンポジウムでは「芍薬甘草湯の歴史と薬理を探る」と題して聖光園細野診療所の中田敬吾氏が特別講演を行い、聖光園創始者の細野史郎氏が解析した芍薬甘草湯の薬理研究を紹介した。ほかに、「芍薬甘草湯のエビデンスデータの構築に向けて」をテーマに12演題、「ベストケーススタディ」では3題、総合討論では芍薬甘草湯の骨格筋と平滑筋に対する作用メカニズムなどが報告された。
 急激な筋肉の痙攣で痛みも伴う「こむら返り」(有痛性限局性筋痙攣)は、芍薬甘草湯の代表的な適応症だが、今シンポジウムでも多数の演題が見られた。
 大垣市民病院消化器内科の熊田卓氏は、肝疾患に合併した末梢神経障害として発症したこむら返り18症例に芍薬甘草湯を処方したところ、有効率94%(完全消失12例、ほぼ消失5例)と著効を示したことを報告した。
 えいじんクリニックの兵藤透氏は、透析患者の約20%に出現するという下腿のこむら返りに対する芍薬甘草湯の即効性と予防的投与の有効性を説いた。
 慶応義塾大学医学部救急医学の田島康介氏は、「漢方に明るくない整形外科医でも『こむら返りには芍薬甘草湯』と認識している」とし、即効性や証にとらわれず自覚症状を目標に広く用いられている実態を伝えた。
 妊娠中のこむら返りについては、伏木医院の伏木弘氏が妊婦37例に頓用で芍薬甘草湯を投与した結果、全例で有効もしくは著効を得たとして、「合併症のない妊婦には有用」と考察した。
 また、宮本みづ江氏(東葉クリニック大網脳神経外科)は、血液透析患者のこむら返りに芍薬甘草湯を処方し、つれる回数、時間、程度ともに軽減したという。
 そのほか、橋口宏氏(日本医大千葉北病院整形外科)が肩関節周囲炎(五十肩)、田中源一氏(同源漢方研究会・源一クリニック)が月経前ざそう、福島峰子氏(針生産婦人科内科クリニック)が無排卵・無月経の症例をあげ、それぞれに対する芍薬甘草湯の有用性を報告した。
(詳細は本紙516号に掲載)




第48回日本東洋心身医学研究会
「心と身体を支える漢方」
東日本大震災を振り返る

 3月10日(土)に品川インターシティホテル(東京都港区)で聞かれた「第48回日本東洋心身医学研究会」(日本東洋心身医学研究会、(株)ツムラ共催)は、「昨年3月に起きた東日本大震災があらゆる方面に大きな影響と教訓を与えた」として、「心と身体を支える漢方〜東日本大震災の教訓を経て」をテーマに据え、シンポジウムと特別講演で大震災時における治療や支援を取り上げた。今号では、特別講演とシンポジウムの内容を紹介しよう。
 特別講演では、東北大学病院総合診療部の本郷道夫氏が、日本心療内科学会被災地支援委員会アドバイザーの立場から「東日本大震災の経験と社会と行動と消化器疾患」として、次のように語った。
 今回の大震災では、津波罹災者のトラウマや喪失体験、避難時の劣悪な住環境などいずれも過酷であったが、支援チームの中には、組織立たずに被災地入りしたチームが多数存在し、短期間で引き揚げたり、同じような話しかけや質問が重なったことで、被災者の側が疲弊し反感を覚えるようになったケースもあったという。他方、系統的継続的支援が実施できたチームの活躍は目覚ましく、海外からの支援では、イスラエル軍が持参し帰国時には寄贈していった診療機器付きのプレハブ診療所や、米国眼科学会が日本眼科学会の要請を受けて提供した眼科診療バスは「特筆すべき」と高く評価した。「一連の状況から言えることは、継続診療を行う体制の構築こそが重要」と本郷氏は語る。
 シンポジウムでは3題が講演された。「被災地におけるメンタル支援——2学会の活動に参加して」と題して講演した東邦大学医学部心身医学講座・心療内科の端詰勝敏氏は、「重要なのは完全自己完結型の支援」と述べ、支援者側は極力自立できる体制を整えて被災地入りする必要性を説いた。東北大学病院漢方内科の高山真氏は、同科が被災地で行った漢方診療を紹介。宮城県石巻市、女川町で計12日間実施したところ、初期は物資不足と衛生状態悪化による低体温、感冒、嘔吐下痢が多発。日が経つに連れ、呼吸器やアレルギー症状、精神症状や慢性疼痛が出現した。麻黄剤や温裏剤、柴胡剤などの有用性を再確認したという。「目に見える恐怖、目に見えない恐怖と戦って…」と題した福島県立医大の渡辺久美子氏は、余震が続いた福島で不安や恐怖が増幅したり、放射線を心配するあまり窓も開けず一歩も外出できないなどの症例があったことを報告。症状に合わせて柴胡加竜骨牡蛎湯や加味帰脾湯、十全大補湯、抑肝散などを投薬し奏効。「訴えにじっくり耳を傾けることも重要だった」と述べた。 (詳細は本紙514/515合併号に掲載)




「免疫あれこれ」をやさしく伝えるために
定期講演会をボランティアで

 日本橋清州クリニック院長の佐藤義之氏は、秋田・玉川温泉の湯治館「そよ風」で毎月、東京では同クリニックに近い会場で隔月(奇数月)、『免疫あれこれ』をテーマに講演会(勉強会)を開催している。
 さる3月17日(土)に東京で聞かれた講演会も満場だった。成分の構造式や成分名、生体メカニズムなどに関する専門的な説明をするとき、佐藤氏は大きく図解しながら「少し難しいかもしれないけれど、ここ我慢して聞いて」と声を掛けたり「これは牛乳の話のときにもありましたね」とリピートを促したりするためか、会場には講師と参加者との一体感がある。終了後の質疑応答では、会場から講演を掘り下げた内容の質問が寄せられ、参加者の理解度の高さが垣間見られた。
 今回の『免疫あれこれ』のテーマは「油を学ぶ」。植物性油脂と動物性油脂の中の脂肪酸に焦点が当てられた。脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、植物性油の脂肪酸は主として「不飽和脂肪酸」で、融点が低く常温で液体。これに対し、動物性油の脂肪酸は「飽和脂肪酸」で融点が高く、常温で固体。人間は牛や豚より体温が低いので、体の中で固まりやすく、「血液がドロドロになる」と言われる。しかし、植物油は酸化しやすく、商品化するには構造を是正し、長期保存を可能にする必要がある。そこで考え出されたのが、水素添加法だ。不飽和脂肪酸の未結合の腕に、150〜200度の高温・高圧で水素を結合させて、一見、飽和脂肪酸に似た構造に加工する。
 ところが、こうした不飽和脂肪酸は、「トランス脂肪酸」と呼ばれ、広く健康被害を及ぼす可能性があると指摘されているのだ。トランス脂肪酸の悪影響について佐藤氏は、①アレルギーの抗原としての存在②肥満の原因(体内で分解、代謝ができないため、内臓脂肪として付着しやすい)③細胞膜への直接影響を挙げた。
 細胞膜への直接影響について佐藤氏は、トランス脂肪酸は細胞膜を構成している「オメガ3」「オメガ6」という脂質のバランを崩し、細胞膜構造を変化させ、機能低下をもたらすという。特に脳神経細胞の細胞膜には、オメガ3が必要で、20%以上含まれていないと、情報が正しく伝達されない。「実際に、アルツハイマー認知症などの脳では、オメガ3が低いことが証明されている」と述べ、注意が必要なことを強調した。
(詳細は本紙514/515合併号に掲載)



厚労省の調査に疑問
「なぜ一歩も進まないのか」
「一般用医薬品の通信販売解禁を推進する議員連盟」総会で

 2月21日(火)、衆議院第一議員会館第4会議室で聞かれた「一般用医薬品の通信販売解禁を推進する議員連盟」(田村謙治事務局長)の総会では、馬淵澄夫、蓮舫議員らが冒頭挨拶し、「規制仕分けでも医薬品ネット販売の安全性、利便性を踏まえた提供の仕方の議論が、なぜ一歩も前に進まないのか」と檄が飛んだ。
 この日は厚労省医薬品食品局と日本チェーンストアドラック協会がこれまでの経過を説明。離島居住者などに限り通信販売を認めた経過措置については、厚労省の調査の結果、利用者が多く、期限終了後の昨年6月1日に、さらに2年間延長したことなどが報告された。
 これについて蓮舫議員は「経過措置がなくなると困るか否かと、副作用に関する調査項目がない」として、調査の不備を指摘。これに対し厚労省側は、「利用者ではなく販売業者に向けて調査を実施したため、質問事項を設けていない」と回答。蓮舫議員は「郵送販売が中止されている現況において、経過措置での利用者は唯一ネット販売を継続している。この人たちの副作用の実態を調査してリスク区分の見直しに反映させるべき」「省庁任せにせず、フオローアップする必要性がある」と指摘した。
 有識者として参加した阿曽沼元博順天堂客員教授は、「対面販売、ネット販売それぞれの優位性と欠点をどのように制度設計に盛り込むのかいう視点で設問し、広範囲に実施しなければエビデンスにはならない。調査の視点を明確にし、厳しく議論してから実施すべき」と述べ、厚労省側には後日回答するよう求めた。 (詳細は本紙513号に掲載)




治療の鍵は手足の多汗にあり
『漢方要訣』二宮文乃著

 皮膚科漢方医の二宮文乃氏(熱海市・アオキクリニツク)は、このほど『漢方要訣』を出版した。同氏は、診察の度に簡単な器具を使って手足の発汗テストを行い多くの皮膚疾患を診ているうちに、同じ症状でも治りやすい人と、こじれて治りにくい人があることに気付いた。長引く人の多くは、神経質で物事にこだわりやすい印象があり、問診しながら手に触れてみると、程度の差はあれ、みな発汗が強く、自律神経の緊張と気の巡りの悪さが読み取れたという。「あまりにもよくわかるので本にした」「もちろんこれ一冊では足らないが、およそのことが理解できるように書いた」(二宮氏)とのこと。
 本書は、発汗に関する総論(汗の基本的考察、手足の多汗がもたらす冷えのメカニズム、発病因子と未病、角質層と経絡の不思議、バリアー機能の原動力としての電気的システム———漢方処方のMgとCaの比、生体と水)と、48症例をカラー写真で解説した各論(消化器系、神経系、耳鼻咽喉科系、循環器系、婦人科系、泌尿器系、眼科系、内分泌系)の2章で構成されている。治したい人、治療の幅を広げたい人のための一冊だ。
(詳細は本紙513号に掲載)



生物多様性条約から考える
“生物遺伝資源”と“伝統知識”
資源国、利用国双方に有益な契約めざす

 今年1月21日(日)、東京衛生学園専門学校AVホールにて開催されたシンポジウム「日本の伝統医学に関わる生物遺伝資源と伝統的知識の行方」には、12人のシンポジストが参集し、講演後に総合討論を行った。目的は「日本の伝統医学に関わる“生物遺伝資源”および“伝統的知識”の現状と問題点を洗い出す」というもので、講演と総合議論、会場との質疑応答を通じて、問題点の明確化と整理を行い、必要な具体策と今後の行方を展望することを狙った。

 まずはじめに炭田精造(バイオインダストリー協会)炭田氏が、「名古屋議定書」の「遺伝資源へのアクセスおよびその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」(ABS)を概説。伝統的知識が詳細かつ拡大化し、遺伝資源とほぽ同じ扱いに格上げされたため、商業用、学術研究用ばかりでなく、植物園やカルチャーコレクションなどの保存機関にもABSが適用され、仲介業者による入手についても影響を受けることがあるという。
 また、生物多様性条約(CBD)は、加盟国の国内法に対する拘束力があり、各国法人・個人に対する遵守が求められているが、現時点でCBDに基づく包括的なABS国内法を策定している国は、加盟193カ国のうちの10%程度で、ある分野で限定的にABS法令を持つ国もある。資源国に対するアクセスも、手続きが不透明だったり、過剰規制が出現するなど、取引にさまざまな課題が生じる可能性があると述べた。

 森岡一氏(CBD-ABS研究会)は、生物遺伝資源の話題を中心に、いくつかの事例を紹介した。そのうち、COP10の議論の中心となったアクセスと利益配分については、「権利か否か」「権利保持者は?」「範囲は?」「利益配分は?」など、解釈があいまいで法的不安定さがあり、契約形態も多様になっていると指摘した。
 伝統的知識の取り扱いについて森岡氏は、昨今の現状に鑑み、伝統医学を保有する側がしておくべき必要事項を中心に、次のように提示した。①伝統的知識のデータベース化②大学、研究機関などによる非商用の学術薬草探索研究については、ガイドライン、学会宣言(NIHなどを例とした研究ABDの策定)、サンプルの取り扱い見直しと厳格化などを実施③商用開発研究については個別に対応し、伝統的知識の利益配分については、非金銭的、文化的対応が望ましい。④日本の伝統医学の海外普及(欧米へのコンソーシアム形式による進出、標準化への積極的参加と協力国確保)。

 東海大法学部で知的財産権法を専門とする田上麻衣子氏は、伝統医学に関わる伝統的知識の概要と最新情報を紹介。遺伝資源の定義は、生物多様性条約(CBD)において国際的に合意されているが、伝統的知識については明確な合意が得られていない現状がある。WIPO(国連「世界知的所有権機関」)の規定案では、伝統医学は狭義の伝統的知識の中の技術的知識に分類されているという。遺伝資源、伝統的知識とともに、提供国と利用国をつなぐ基本的な枠組みができたが、明確な定義がなされていない部分が多々ある。特に出所開示については、中国が特許法の中に伝統的知識を盛り込もうとしたが、定義が難しくてできなかった経緯があり、「定義できれば、入ってくる可能性がある」と指摘。各方面に注意を向けておく必要があることを強調した。(詳細は本紙512号に掲載)




KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM 2011
大学卒前教育から初期研修までの
一貫性のある漢方医学教育を目指して

 「カンポウ・メディカル・シンポジウム」((株)ツムラ、日経メディカル開発共催)は、2月4日(土)、「大学卒前教育から卒後教育まで一貫性のある漢方医学教育を目指して」をテーマに今年も開催された。01年からスタートし、12回目を迎えた今回、第1部で医学部教育を、第2部では04年から必修化された卒後臨床研修における漢方医学教育の現状を中心に、シンポジスト7人が講演した。座長は北村聖氏(東京大学医学教育国際協力研究センター)、飯塚徳男氏(山口大学医学部付属病院漢方診療部准教授)がそれぞれつとめた。
 教育講演は、「医学教育の概況と将来の展望」と題して村田善則氏(文部科学省高等教育局医学教育課課長)(座長=高久文麿氏・自治医科大学学長)が、平成22年に改訂された医学教育モデルコアカリキュラムについて概説。特別講演は、黒岩義之氏(横浜市立大学大学院教授)(座長=佐藤達夫氏・東京有明医療大学学長)が、「漢方医学から学ぶ医学・医療の原点」と題して、医療の歴史を振り返った。(次号詳報)



日本東洋医学会関東甲信越支部
平成23年度千葉県部会

 1月22日(日)、千葉市生涯学習センター3階にて日本東洋医学会千葉県部会(今田屋章会長)の講演会が開催され4題の講演発表が行われた。
 「漢方薬の医薬品情報と服薬指導」をテーマに教育講演を行った赤瀬朋秀氏(済生会横浜市東部病院薬剤部課長)は、横浜で開業する漢方医の小菅孝明氏(元町・小菅医院)らと共同で実施した不妊治療調査を紹介した。赤瀬氏によると、ある不妊治療の症例の不妊期間は4.7年、うち西洋医学的治療期間は2.5年で効果がなく、年収の約12分の1(総計約100万円)を費やしていた。その後に開始した漢方治療の総額は約6千200 円。当帰芍薬散、加味逍遥散、柴苓湯などを用いて妊娠に至り、頭痛、肩こりなどの症状も取れ、満足度が高かったという。
 赤瀬氏は、「副作用が少なく経済的な薬物は患者に貢献する」と考察した一方で、「使い分ける技術も必要」と述べ、大連中湯、安中散、甘草を含むエキス製剤など頻用する処方を例に、服薬指導に欠かせない医薬品情報が漢力薬では乏しいため起きたケースや起こりうるケースを示した。

 「江戸時代医学の基底—写本から版本へ」と題して指定講演を行った町泉寿郎氏(二松學舎大学文学部准教授)は、中世から江戸時代に到る医学の発展を、当時の政治情勢と文字による文化の伝達の面から分析。多数の医学書のスライドを交えながら、中世から江戸時代に至る医学知識の伝播、医学教育のありようを写本→活字本→版木という印刷テキストの側面からアプローチした。

 特別講演は、「古方派は後世方をどのよう学習していくべきか〜百々漢陰(どどかんいん)・鳩窓(きゅうそう)父子に学ぶ」と題して、伊藤隆氏(鹿島労災病院和漢診療センター長)が行った。
 幕末の京都の医師であり折衷派の百々漢陰・鳩窓父子の口伝書『梧竹楼方函口訣』に、古方と後世方双方の長所短所を理解するヒントがあるとのこと。日本漢方には、『傷寒論』『金匱要略』の方剤を基本とする古方派、古方で対応できない病態に応じた後世方、両者を併せた折衷派がある。伊藤氏によると、百々漢陰・鳩窓父子は、古典理論に捕らわれず自由で客観的発想のもと、両派を使い分けていた。たとえば婦人の嘔吐に当帰芍薬散を用いて、良くなるようなら悪阻と診断したり、「実痛」「虚痛」を詳述して方剤選択の目安にしたなど。伊藤氏自身もメンタルヘルス不調者に後世方の方剤を使用し、一定の効果を認めたという。「百々漢陰・鳩窓父子は症状や方剤の選択の仕方を具体的かつ丁寧、時に饒舌に解説している」と語った。

 特別報告は「漢方をめぐる国際情勢」について、2つのキーワードをもとに並木隆雄氏(千葉大学大学院医学研究院准教授)が解説した。
 1つ目のキーワードは「WHO」。WHOが主導するICD10(国際疾病分類第10版)に伝統医学の疾患名を入れる動きが端緒となり、中医学をスタンダードにしたい中国が国家プロジェクトとして取り組んでいるのに比して、日本は任意学術団体で対応しており、日本東洋医学会などからの拠出金をもとに折衝を進め、ようやく漢方の「証」「陰陽」「表裏」「寒熱」などが反映される見込みとなった。
 もう一つは「ISO」。本来は工業製品の標準機構だが、中国が中医学を申請したことで様々な軋轢が生じた。並木氏は、「標準化による統一は自由な診療を妨げる」として、①グローバル化に立ち遅れる日本産の生薬が通用しなくなる②鍼製品の輸出困難③中国が標準となることによる品質の低下などの懸念材料を挙げ、国際情勢に関心を向けることを強く促した。(詳細は本紙512号に掲載)



第8回日本消化管学会学術集会
ワークショップで六君子湯を検証
テーマ「上部消化器症状と漢方」

 2月10日(金)に仙台国際センターで聞かれた第8回日本消化管学会学術集会(本郷道夫大会長・東北大学)初日のワークショップでは、8時40分スタートという早朝プログラムながら、活発な質疑応答が行われた。
 当日は、7名の演者が六君子湯の有効性の検討や基礎研究による解析結果と考察などを報告。総合討論も含めて2時間枠で行われた。座長は高橋信一(杏林大)、福土審(東北大)両氏がつとめた。
(詳細は次号で)




“術”を伝える結社「東亜医学協会」に迫る

 今号では、今年で結成後74年を迎える東亜医学協会の成り立ちと足跡、『漢方の臨床』誌の発行、「漢方治療研究会」の開催、将来の展望などについて、同会理事長の寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)にお話をうかがった。

■日本漢方を明確に定義付けする時代に
 寺澤氏は「いま、『日本漢方とは何か』が問われる時代になってる。さまざまな流派が存在する日本漢方に、“吉益東洞”という共通項が存在する。日本漢方は、吉益東洞の医論をベースにしてクロストークしている」と話し、今般『吉益東洞の研究』(岩波書店刊)に東洞の医論をまとめ、上梓したことを紹介した。
 同書の眼目は、野中郁次郎氏(富士通総研理事長)が提唱した「形式知と暗黙知」(『知識創造の方法論』)を借りて、東洞の知識の創造を論じたことだ。東洞は、「伝統的思考を金科玉条とせず、中国医学の陰陽・五行、臓腑・経絡といった観念論をすべて撤廃したことで、“形式知と暗黙知”という次元の異なる両者間にダイナミックな相互作用のスパイラルを生み出すことに成功し、実存的経験論とも呼べる独自の医学を提唱した」という。
 東洞の医論の主軸は、方剤に適当する毒の形である「証」に合わせて方剤を投与するという“方証相対”と、すべての病気はひとつの毒によっておこるものであり、体内で形を変えて出現しているに過ぎないという“万病一毒”だ。毒の実体の多くは、腹部に出現するとして、“腹診”を発達させた。
■日本漢方確立の経緯
 今日の日本漢方が確立した経緯について寺澤氏は、「昭和13年ごろの揺藍期を経過することで、腹診の重要性や、方証相対の考え方についても、微妙な違いはあるものの共通してきた。日本漢方が学問として成立するようになり、昭和25年に日本東洋医学会が組織されたのでは」と考察。4年後の昭和28年に、東亜医学協会が再発足した理由については、“学”と“術”との関係が本質にあったのでは」として、次のように語った。「漢方のノウハウは、すべて学問にはなり得ないし、科学の土俵に乗るのかというジレンマもあったはず。“学会”という組織に限界を感じたのではないでしょうか」
■臨床現場を見なければどうしようもない
 寺澤氏が勤務する千葉中央メディカルセンター(千葉市)の和漢診療科は、卒後臨床研修のカリキュラムのうちの「内科」(6ヵ月)の研修施設の指定をうけており、漢方診療の指導にあたっている。
 寺澤氏は、「漢方の臨床現場の問診の仕方、患者さんの訴えの取り上げ方には、独特の丁寧さがあります。腹を診て脈を診て、舌の所見を診て、一見つまらないと思える自覚症状も聞き出さないと証が決まらないのです」「先日、ある大学教授が外来見学に来ましたが、『私の考えていた漢方とは全く違う』と感動して帰られました。“術”は盗むもの。外科手術も同様でしょう。習得するには、見なければどうしようもありません」と話し、漢方医が実践する臨床現場を見ることの重要性を強調した。
 「いまの医学部は、国家試験に合格するための知識を詰め込む場になっていて、専門学校化しています。一方で、若い人の感性は信用できる」と、卒後臨床研修に訪れる若き人材の感性を評価している。医学の進歩を否定することなく、そのひずみを補完する必要性を感じ、統合していくための医療技術を若い世代が身につけていくことに、期待を寄せているようだ。

(詳細は本紙511号に掲載)


第31回漢方学術大会開催
「本朝経験方」の意義に迫る
連綿とつづく伝統医学の真骨頂を披露

 1月15日(日)に慶應義塾大学薬学部芝共立キャンパスで聞かれた日本漢方協会主催「第31回漢方学術大会」には206名が参集し、盛会となった。
 当日は、特別講演が予定されていた山田光胤氏(同会講師団長)が体調不良で欠席し、講演要旨を高木嘉子氏(ヨシコクリニック)が代読して解説。同じく特別講演では、金成俊氏(横浜薬科大学)が韓国の伝統医学である韓医学の歴史的背景、医療制度、教育制度、医療の実態などを概説。油井富雄氏(ジャーナリスト)は、渋江抽斎、井沢蘭軒、小島宝素、森立之などの江戸時代の漢方医家を、晩年、史伝として書き残した森鴎外の人物像に迫った。
 山田光胤氏は、「現今の日本漢方は、古方、後世方、本朝経験方の三流から成り立っている。このうち本朝経験方は①古方に基づく、②後世方に基づく、③古方・後世双方に基づく、④全く独自、の4つに区分される」と解説。ツムラの医療用漢方製剤は古方60余、後世方50弱、本朝方20、『漢方処方の応用と実際』(山田氏著書)収載処方は古方140、後世方80、本朝方31にそれぞれ区分できるという。
 急きょ代役をつとめた高木嘉子氏は、山田氏の要旨を読み上げながら「葛根湯は汗をかいている人には用いない」「七物降下湯は舌裏の静脈に怒張がみられる人に」「腫物に用いる十味敗毒湯は膿がでる前の方が効果がある」など、処方の際の留意点や自身の処方経験も交えて解説した。
(詳細は本紙510号に掲載)


官民の政策対話を通して産官の共働を推進
平成24年薬業四団体新年賀詞交歓会

 東京医薬品工業協会、東京薬事協会、東京医薬品卸業協会、東京都家庭薬工業協同組合の薬業四団体が共催する新年賀詞交歓会が、1月6日、都内のホテルで聞かれた。新たな年の訪れを言祝ぎ、さらなる飛躍を期した席上には、平成23年度薬事関係功労者6名が招かれ、医薬品業界の発展に貢献した功績に対して記念品が贈呈された。
 開会の辞に続く主催者代表挨拶では東京医薬品工業協会の松田譲会長(協和発酵キリン社長)が、「製薬業界は、本格的なグローバル化の流れの中にあり、各社新たな事業展開や国際競争力強化のための戦略投資を活発化させている」と回顧。今後の最重要課題として、三年間凍結された法人実効税率の引き下げなど、税制改正を強く要望。「われわれ製薬業界も世界中の患者さんのもとへより良い薬をより早く届けるために、官民の政策対話等を通して産官の共働を推進するとともに、日本発の革新的新薬の創出などライフイノベーションの実現に向けて努力を重ねていきたい」と新年の決意を結んだ。

(詳細は本紙510号に掲載)


家庭薬を国民共通の財産に
全国家庭薬メーカー・卸合同新年互礼会

 400年以上の歴史を有する伝統企業をはじめ幾多の老舗企業が集う「平成24年全国家庭薬メーカー・卸合同新年互礼会」が1月6日、都内のホテルで開催された。
 家庭薬メーカーを代表して挨拶に立った牧田潔明全国家庭薬協議会会長(わかもと製薬会長)は、今年の展望に触れ、セルフメディケーションの普及、伝統薬の活性化、関係機関への政策提言、育薬支援などに積極的に取り組み、3月16日からのジャパンドラッグストアショーでは家庭薬イベントを企画していると披渥し、「家庭薬が生活者、消費者の健康、生活になくてはならない国民共通の財産として支持いただけるよう力を尽くし、飛翔の年になることを祈念したい」と抱負を述べた。
 卸業者を代表して挨拶に立った木俣博文全国家庭薬卸代表(アルフレッサヘルスケア会長)は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』になぞらえて、「家庭薬はロングセラーで素晴らしい歴史と実績がある。皆様と一緒に坂を上って大きな雲を掴みたい。地域の生活者とともに成長するメーカー、卸でありたい」と力説した。
 塩澤太朗東京都家庭薬工業協同組合副理事長(養命酒製造会長)の乾杯で懇談に入り、風間八左衛門全国家庭薬協議会副会長(ツムラ顧問)の中締めで幕を閉じた。

(詳細は本紙510号に掲載)


新春特別インタビュー 御影雅幸氏
“生薬栽培のこれから”を語る
「生薬栽培はやりがいのある仕事」

 新春を迎え、今号では御影雅幸氏(金沢大学大学院自然科学研究科)に生薬栽培の今後についてうかがったのでお伝えしよう。中国産の生薬の価格の高騰が激しい中、日本の生薬資源をどのように確保していくのか。国内栽培の方策も含めた将来の展望をお話しいただいた。(聞き手・田部井志保)

 ー生薬栽培の現状についてお話を伺います。まず、葉タバコの減産に対応して生薬栽培を提案する意見がありますが、どうでしょうか?
 御影「葉タバコ栽培の収入に見合う生薬栽培というのは、難しいようですね。生薬も含め、農作物は相場の対象になることもありますが、病気の治療を目的とする生薬と食糧品を同じ基準で考えるのはおかしいんです。値崩れを起こしたり、価格が大きく変動することで、生産されたりされなくなったりするのは危険です。」
 ーそうすると、生薬栽培は、国が保護政策をとらなければできないということになるのでしょうか。
 御影「国民の健康の問題ですから、本来であれば国がまず着手すべきです。薬価も正当に評価しなければなりません。市場の一番安いものに価格を合わせることはまかりならない。品質評価の仕方も検討する必要があります。」
 ー製薬会社や生薬を扱う薬局は、品質を下げないためにかなりきつい努力を強いられているようですね。
 御影「とにかく、中国が発展して物価が上昇すれば、生薬価格も上がります。その状況に対して無策のまま、あるいは無視して薬価を維持したり下げたりしたら、市場には逆ザヤ価格がどんどん生じて堪え切れなくなります。」
 ーTPPなどの対外開放政策が議論されています。こうした状況下での国産の生薬栽培の全体像についてはどのように考えますか?
 御影「生薬も、本来は国が保護するべきと考えますが、はじめは企業との契約栽培で着手するようになるのではないでしょうか。農家に対し、ある程度の収入を保証する必要があります。効率いい栽培で多くの収益に結び付くのなら耕作するし、利益が得られなければ、作らなくなります。生薬にも価格の変動があって難しい面があります。」
 ー生活していくためには安定した収入が必要ですから、自分を守るためには無為無策のままではいられないでしょうね。
 御影「ですから生薬栽培は、品質を確保する努力を農家が行い、買う側は、相場とは関係なく、一定価格での買い上げを保証する必要があるんです。今後は、一人当たりの耕作面積を広くして、効率を上げ、品目を増やすなどして、危険分散をしていく必要があるのではないでしょうか。1種類の生薬のみの栽培では、どうしても価格変動の影響が大きくなります。薬価さえ何とかなれば、国内でも栽培は可能なんです。」
 ー生薬の薬価を上げるためには、説得力ある大義を示した具体的な数値計画などが必要なのではないでしょうか。
 御影「生薬の価格は『人の手』の価格です。製品を包装するにしても日本では高くつきますから、海外現地で選別から加工までして輸入することになります。国内栽培を実現させるためには、機械化で効率を上げることも重要です。栽培の規模が大きくなれば、専用の機械を開発することも可能になりますが、はじめは、新たな設備投資をしないで効率よくスタートできる方法を提案をする必要があります。」
 ーところで、津波の浸水で塩分濃度が上がってしまった畑に甘草を植えて、試験的に栽培が行われているようですが、甘草は海水を被った土地でも育つんですね。
 御影「甘草は大丈夫です。マオウも強いですよ。こうした薬草を植えて、再び他の農作物が作れるようになるまで待つということです。マオウは、私のライフワークのひとつとして研究を継続しています。なんとか日本で栽培できればと思っています。塩にも強いし、砂地でも砂丘でもどこでも育ちますから、ほかの作物が植えられない土地を利用するにはもってこいです。被災地での甘草の栽培はいいアイデアかもしれませんね。」
 ー生薬の国産化を推進させるうえで必要なことをお聞かせください。
 御影「国内の生薬市場は、ほとんど中国に依存している中で、いつ規制がかかるかわからない状態です。われわれは何の予測もできません。危険分散の観点から、中国に限らず他の国、たとえばミャンマーでも栽培が行われようとしています。国内栽培については、まず農地の面積を大きくして機械化による効率化をはかることが必要です。日本での栽培方法の確立や種苗の確保は、一朝一タにはできませんから、早く始めるほどいいわけです。機械化できるような土地の確保も必要です。知恵を絞って、多品目を植えるような危険分散の仕方も模索し、徐々に進めていく必要があります。加えて、生産者には、医薬品を作っているという自覚を持っていただきたい。生薬栽培は、非常にやりがいのある仕事なのです。生薬の国産化については、国や製薬メーカーも含めて、大きな組織で推進する必要があると思います。」
 ーたくさんの貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
(詳細は本紙509号に掲載)


心身医学の臨床に重点
第16回日本心療内科学会総会・学術大会

 第16回日本心療内科学会総会・学術大会は11月26日(土)、27日(日)の2日間、『明日の医療を拓く心療内科』をテーマに東京国際交流会館・プラザ平成(江東区)で開かれ、盛会となった。この会は、臨床に重点をおいた心理臨床の学会として毎年開催されている。
 教育講演では中島重徳氏(近畿大学医学部名誉教授)が、「呼吸器疾患心身医学研究会」の歴史をひもとき、呼吸器心身医学の今後を展望した。
 富田和巳氏(こども心身医療研究所・大阪総合保育大)の教育講演では、心因性疾患が乳幼児期から続く環境に大きく影響されることを指摘し、情報を総合判断する小児科的発想を心療内科に加味するアプローチの有用性を指摘した。
(詳細は本紙509号に掲載)



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