編集/発行・漢方医薬新聞社 

520号(12年8月1日発行)〜522号(12年10月20日発行)

       

統合医療をいかに推進するのか
日本生薬学会第59回年会
漢方と西洋医学を同じフィールドで施療する優位性

 日本生薬学会第59回年会が9月15日(土)、16日(日)の2日間にわたり、かずさアカデミアパークにおいて開催され、約600人が参集した。今回は日本生薬学会会長の大塚英昭氏(安田女子大学)が生薬学会賞を受賞したことから、会長講演と受賞講演を併せて執り行った。演題は「熱帯・亜熱帯植物の活性成分」。特別講演は、年会実行委員長の斉藤和季氏(千葉大学大学院)の肝いりで寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)が「現代医療における漢方の役割」と題して講演。一般口演発表63題、ポスター発表191題と賑わった。

 寺澤氏は今講演で、鳩山民主党政権下で押し進められた「統合医療の積極的な推進の検討」を受け、厚労省内に「統合医療プロジェクトチーム」が発足したことを紹介。米国NIH(国立衛生研究所)の所属研究機関NCCAM(国立補完代替医薬センター)に影響を受け、わが国の統合医療に関する現状の把握と今後の取り組みなどの検討会議をスタートさせたという。
 アメリカが統合医療に研究予算を投じるようになったのは、銀杏葉やキャッツクロー(カギカズラ属植物)などのサプリメントや健康食品が数兆円規模の大きなマーケットを占めるようになったから。米国政府は1990年代から調査を開始、商品の品質や効能・効果を評価する施策を推進するようになった。寺澤氏は「当初10億円の研究予算でスタートしたNCCAMは、2010年には500億円規模になっている」など、アメリカの現状を伝えた。
 日本の現況について寺澤氏は「日本には漢方医学(鍼灸を含む)の厳然たる伝統があり、これらを代替医療と称することに反発がある」「むしろ近代西洋医学の方がオルタナティブ」と主張。「東洋医学を基調とした日本型統合医療が提案されるべき」と述べ、すでに漢方が現代医学を補完し支援していることを詳述した。
 また日本が、保険医療という同じフィールドで東西医学を同時に施術している唯一の国家であることの優位性を論じた。具体例として、頭部MRIの画像に脳梗塞の所見が観察され入院したケースを紹介。新薬の副作用が出現し、継続的な服用が困難だった。漢方医学的所見には「瘀血」の証があり、いくつか方剤を変方後、疎経活血湯を服用したところ右半身のしびれや脱力が改善しはじめ、10日程で症状が消失、4週間で退院したという。
 「気虚」の症例では、身体がだるい、風邪をひきやすい、日中の眠気、食欲不振、下痢傾向、四肢の冷え、頭重感、車酔いしやすいなど、血液検査では異常が出ない患者にたいして、初診時に六君子湯から甘草を去った煎じ薬を処方。3ヵ月後、胃下垂以外の症状はすべて改善した。「東洋には“生命体には『気』があり、互いの『気』を交換しながら適量を保ち、良好に循環していれば天寿を全うできる”という思想がある。現代医学の診断技術にはこれを数値化する方法がない。客観化、普遍化ができないのでなじみにくいのでは」と語った。
 寺澤氏はまた、治療ガイドラインに則った標準的医療と漢方の併用例も提示。放射線によるがん治療や分子標的薬の副作用を軽減する役割を担っている現況を紹介した。放射線治療の症例では、放射線照射後に出現した舌と口腔内疼痛による食事困難に対し甘草瀉心湯を投薬、放射線照射線量を定量まであげることが可能となり、2ヵ月で終了したという。(本紙522号に掲載)




がん治療———漢方の守備範囲とは
第29回和漢医薬学会学術大会

 前号に引き続き、9月1日(土)、2日(日)の両日、北里大学薬学部コンベンションホールで開催された第29回和漢医薬学会学術大会のシンポジウム「和漢医薬学とがん」の概要をお伝えしよう。
 北里大の日向須美子氏はがん治療における漢方への期待度を、厚労省など関係機関が実施した調査結果から分析。再発・転移抑制、化学療法などの副作用軽減、QOLの改善を挙げた。
 富山大の済木育夫氏は漢方の守備範囲として①補剤(体力の回復、栄養状態の改善、新陳代謝の活性化、免疫造血能の亢進→補気、補血、補腎)、駆瘀血剤(微小循環改善→活血)、利水剤(水・電解質バランス、内分泌系の改善→水滞)、理気剤(抑うつ剤、ストレス、精神的要因の改善→気滞)、和剤(生体諸機能の調整→和解)とした。
 金沢医大の元雄良治氏は、漢方の役割として①慢性疾患からの発がんおよび再発の予防、②体調の変化の察知———診断への契機、③放射線療法などの副作用の軽減、④外科手術後の合併症対策、⑤腫瘍免疫能の賦活化、⑥緩和ケアにおける症状緩和、⑦サイコオンコロジー(がん患者の心のケア)での応用などを提示。
 神奈川県立がんセンターの林明宗氏は、合併症を緩和する紫雲膏の臨床応用に着目。効果の高さに対する林氏自身の驚きも伝わってきた。看護師らの口コミで医師が用いるようになった現象も興味深い。
(本紙522号に掲載)




和漢薬の解析研究多数
第29回和漢医薬学会学術大会
『証』の議論、ひとまず棚上げ

 9月1日(土)、2日(日)、北里大学薬学部コンベンションセンターにおいて、第29回和漢医薬学会学術大会が聞かれた。今大会は、同会の前身である「和漢薬シンポジウム」の発起人、山村雄一元大阪大学医学部教授が発した「『証』という言葉を使わない会」という発足当初の精神に立ち返り、自己完結的な議論になりがちな「証の論理」をひとまず棚上げして、研究者同士が共通認識している科学によって議論することをめざした。当日は開始早々から満場となり、会場は熱気に包まれた。
 シンポジウム1は、「和漢医薬学とがん」と題して4人の演者が講演。会場はほぼ満場となり、活発な質疑応答が行われた。
 日向須美子氏(北里大)は、漢方方剤によるがんの再発・転移防止療法を探索。麻黄湯および麻黄がHGF(肝細胞増殖因子)により誘導される受容体型チロシンキナーゼ(c-Met)発現がん細胞の運動能を抑制することを明らかにした実験結果を解説した。
 作用機序を解析したところ、構成生薬の麻黄がc-Metと同じ代謝経路の下流にあるAktのリン酸化を阻害することでHGFのシグナルを抑制しており、c-Met発現ヒト肝臓がん細胞や、血清により誘導されるヒト乳がん細胞による実験でも運動能を有意義に抑制していた。麻黄の主成分であるエフェドリン類にc-Met阻害効果や運動能抑制効果はなかった。(本紙521号に掲載)





第22回漢方治療研究会 北里大で
会頭講演「大塚恭男先生から学んだこと」
教育講演「証と症の科学的証明」

 さる9月30日(日)9時から17時まで、北里大学薬学部コンベンションホール(港区白金)において、第22回漢方治療研究会が開催された。
 会頭講演は、「大塚恭男先生から学んだこと」と題して花輪壽彦氏(北里大学東洋医学総合研究所所長)が講演。大塚氏は、斉藤茂吉を愛し、自身も歌を詠んだ教養人で、温厚な人物として知られている。花輪氏は、大塚氏からさまざまに放たれた言葉の数々と、在りし日の診療の様子を、大塚氏が好きだったというスメタナの曲「わが祖国」の「モルダウ」を流しながら音楽にのせて紹介した。
 教育講演では、北里大同研究所で所長補佐をつとめる伊藤剛氏が「証と症の科学的証明」と題して講演。今回は舌証、腹証、寒熱証(冷え症)の研究を紹介した。
 ランチョンセミナー(クラシエ薬品共催)では、安井廣迪氏(安井医院)が「日本漢方の特質」と題し、漢方医学が日本に導入され、独自的な発展を遂げてきた歴史的な経緯と、今日の漢方医学をひもとき、「日本漢方とは」という大命題を論じた。
 一般演題は、症例報告を重視する同研究会の真骨頂であり、今回は23題が発表され、活発な議論を呼んだ。
(本紙521号に掲載)




第29回和漢医薬学会学術大会
「和漢医薬学、さらなる高みへ」
和漢薬の作用機序、継続積み上げの意義、再確認

 第29回和漢医薬学会学術大会が9月1日、2日の両日、北里大学薬学部コンベンションホールで開かれる。今回のテーマは、「和漢医薬学、さらなる高みへ」。特別講演3題、シンポジウム3題、口演およびポスター発表による一般講演92題が発表される。大会長をつとめる花輪壽彦氏(北里大学東洋医学総合研究所所長)は、「この学会の特徴は、医学・薬学・農学・生物学など多種の学際領域の研究者が一堂に会し、最新の学問的成果を発表し、切磋琢磨し、連携していく場を提供することだと思っている」とコメント。同学会の発足当初の精神にも触れながら、今回の見どころについてお話しいただいた。

 「今回のテーマは前回の『和漢医薬学の最前線』を踏襲し、『さらなる高みへ』としました。大会ポスターの東京タワーと東京スカイツリーに、その思いを込めてみました。プロクラムは、この一年の研究成果を、昨年の大会に積み上げる内容になっています。」
 「特別講演3題は、私どものの研究所に関連したものとして、まず小曽戸洋先生が漢方処方を歴史的変遷という視点で講演します。2題目は、大建中湯の研究で著名な河野透先生です。漢方方剤の臨床治験がアメリカで盛んに行われている現況を報告されます。河野先生は、『漢方のエビデンスが黒船となって米国から押し寄せつつある』と報じています。3題目は、東大の尾崎博先生です。尾崎先生と当研究所は現在、消化管の運動と、炎症、免疫機能との関係について共同研究を進めており、最新知見を紹介していただきます。」
 「シンポジウムは、がん、医療薬学、免疫に焦点をあてた3セッションです。がんに対する漢方薬の治験と作用機序の研究は、継続して積み上げていく必要があり、医薬品の上手な使い方など、薬学の目から見た和漢医薬学のあり方を検討していくセッションとして意義があります。また漢方薬に免疫系の機能を高める治療効果があることが古くからわかっていましたが、今日の科学的な解析研究がどこまで進展しているのかを今シンポジウムで紹介します。」
 「特別シンポジウムの演者は、ISO(国際標準化機構)のTC215やTC 249などの国際標準を決議する会議に参加しているメンバーと、経済産業省でJIS(日本工業規格)を担当している方なので、最新情報が報告されるはずです。国際シンポジウムのセッションでは、日韓WHO伝統医学協力センター5施設のうち、4施設(北里大学東洋医学総合研究所、富山大学医学部和漢診療学講座、ソウル大学、慶煕大学)が発表します。現在、センター間では、情報交換や共同研究、人的交流など、さまざまな連携の中で研究を進展させています。」
 「一般演題は、ポスター発表72題、口頭発表20題、計92題が発表されます。薬学生による発表も行われます。東洋医学研究会や漢方研究会などの学生サークルのメンバーがポスターセッションで質疑応答を行う初めての試みで、4大学が発表します。このセッションが、学生の積極的な取り組み姿勢を促したり、向上心を高めたりするきっかけになることを期待しています。」
 「今回、大会長を引き受けて感じたことの1つとして、和漢医薬学会の発足当初に掲げられた『精神の原点』というものがありました。和漢医薬学会の前身『和漢薬シンポジウム』の発足は、1967年に遡ります。創始のメンバーの山村雄一先生(元大阪大学総長)は、第1回大会の挨拶の中で、『この学会は、《証》という言葉を使わない会にしたい』と発言されたそうです。というのも、当時の漢方の臨床家たちは、『私が診立てた証』に固執して、議論にならない面があり、万人が普遍的に理解できるような言葉で伝えることが難しかったんです。作用機序を解明するために、基礎研究者が動物実験による漢方方剤の効果を示しても、『証によらないと意味がない』と一蹴したりしました。『証』という言葉を使わずに、伝統医学の治療効果に科学的な根拠を与えようというのが、この学会の基本姿勢です。その持ち味を生かした大会となることをめざしています。」


(詳細は本紙520号に掲載)



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