編集/発行・漢方医薬新聞社 

523号(13年3月15日発行)〜528号(13年10月1日発行)

         

薬用植物の産地化に向けたブロック会議
国産の生薬栽培、復興元年となるか
生産農家と企業つなぐ目的で

 厚生労働省と農林水産省、日本漢方生薬製剤協会が8月1日から全国8ヵ所で開催した「薬用植物の産地化に向けたブロック会議」(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中四国、九州)の最終となる東北ブロック会議が、9月27日(金)に終了した。会場となった仙台第1合同庁舎には、東北6県(青森、秋田、岩手、福島、宮城、山形)の県市町村の関係部署の担当者や生産者など126名が参集し、薬用作物をめぐる事情や、漢方の現状、薬用作物の受給情報などの議題について意見を交わした。
 会の冒頭、農林水産省の櫻谷満一氏(生産局農務部地域作物課)は、「薬用作物は、国内市場の拡大が見込まれる数少ない作物。耕作放棄地の活用や中山間地域の活性化にもつながるとして関心が高まっているが、取引市場がなく、実需者である企業と生産者のマッチングは極めて重要」との認識を示した。
 企業側の代表として挨拶に立った日本漢方生薬製剤協会生薬国内生産検討班の原裕司班長(夕張ツムラ社長)は、「国民皆保険制度の中で、西洋医学と東洋医学を同時に受療できる世界初の医療制度は、日本の大きな財産。医師の89%が漢方製剤を使用しており、漢方製剤の安定供給は欠かせない。一方で原料生薬のほとんどを中国に依存している現状があり、種苗の確保、薬用植物専用の農場の開発、必要最小限の使用農薬の確保、コストなどの課題が山積している。今後、さまざまな課題が顕在化すると思われるが、何とか乗り越えて薬用作物の栽培を実現させたい」と述べ、生産者側に協力を仰いだ。
 今後は10月末を目途に提出される産地側の要望書とあわせて今回の8ブロック会議の内容を総括し、厚労省や関係団体と協議して行く。

(詳細は本紙528号に掲載)




「梅核気(ヒステリー球)」には浮腫性変化があった
舌根部の腫大、“喉頭ファイバー”で確認

 9月28日(日)に京都薬科大で開催された第23回漢方治療研究会の一般講演では、今中政支氏(いまなか耳鼻咽喉科)が「“梅核気”(咽喉頭異常感症)の定義と相反する特徴的な所見を喉頭ファイバーによる画像診断で得た」として発表。特効薬となっている半夏厚朴湯の効能についても考察し、新たな側面を見出した。
 今中氏の喉頭ファイバースコープ(内視鏡)を用いた視診では、半夏厚朴湯証の患者の舌根部に浮腫(むくみ)が認められる場合が多く、特徴的な所見となっていたという。講演で提示された内視鏡画像は、半夏厚朴湯証の典型例では舌根部が腫大して喉頭蓋を圧排し、喉頭蓋谷の谷部が消失して平らになっていたのに対し、非典型例の画像には腫大がなく喉頭蓋谷が一望できる状態で、両者の差異は容易に比較できた。(下図)

 今中氏は「咽喉頭異常感症に半夏厚朴湯がことごとく奏効する理由は、気鬱(気滞)を解除する理気剤の向精神作用と、利水作用による局所の抗浮腫作用の絶妙な組み合わせ効果ではないか」と考察。「舌根部の腫大(水滞)は、耳鼻咽喉科医にとっての半夏厚朴湯証」と結語した。
 そのうえで「舌根部の腫大と半夏厚朴湯証との関係に、私自身の先入観が加わっている可能性もある」とも付言し、さらなる検証の必要性を強調した。
 講演後の質疑応答では、「舌根部の腫大は、舌の判断所見の1つ。さっと改善する人もあれば、徐々に改善する人もあり、水滞の舌の所見と同じく変化する。一般に耳鼻科の医師は病的な器質的変化とは捉えないので、喉頭部の内視鏡検査を依頼する際には、耳鼻科医とは、事前のディスカッションが必要」と述べた。
 なお、今発表の共同演者には、峯尚志氏(峯クリニック)と土方康世氏(東洋堂土方医院)が加わっている。 (詳細は本紙528号に掲載)




日本漢方のあるべき姿とは
第23回漢方治療研究会(京都)

 さる9月29日(日)、東亜医学協会(矢数圭堂会長、花輪壽彦理事長)主催「第23回漢方治療研究会」が京都薬科大学躬行館(京都市山科区)で開かれ、約230名を集めて盛会となった。「漢方のあるべき姿をもとめて」をテーマとした今回、シンポジウムでは生薬資源の問題を取り上げたほか、一般講演では23人が日ごろの研究成果を発表。会頭講演では山崎正寿会頭が、日本漢方の「随証治療(方証相対)」の真の意味を追及すべく、吉益東洞の弟子の中西深斎が残した「挈因命証」に注目し、論を展開した。
 スポンサードレクチャー(小太郎漢方製薬提供)では、寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセ ンター)が「心下支結」という心下部の症候に着目し、著効を得たことを報告した。
 東亜医学協会賞表彰式では、花輪理事長(北里大学東洋医学総合研究所)が、福田佳弘氏(福田整形外科医院)、鈴木達彦氏(東京理科大学薬学部)、八木多佳子氏ほか10氏(日本漢方協会)に表彰状と記念品を授与した。
(詳細は本紙528号に掲載)




第30回和漢医薬学会学術大会
「多様性と漢方」
原点に立ち返り、正しい方向性を導き出す

 第30回和漢医薬学会学術大会が8月31日(土)、9月1日(日)の両日、金沢大学自然科学本館・大講義棟(角間キャンパス)で開かれる。テーマは「多様性と漢方」。特別講演2題、シンポジウム4セッション、口演・ポスター発表による一般講演95題が発表される。大会長をつとめる御影雅幸氏(金沢大学医薬保健研究域薬学系)は、「和漢医薬学は、もとより個の多様性を重要視して発展してきた」として、漢方医学と和漢医薬学の原点を再確認し、正しい方向性を導き出すことをめざしている。今回の見どころについてお話しいただいた。

 「今大会は『多様性』に焦点をあててみました。漢方はもともと、多様性に基づいて発展してきました。たとえば『同病異治』『異病同治』といった治法の概念はその結果であり、西洋医学とは相容れない部分でもあります。治療に用いる生薬も天産物ですから、『生物多様性』の影響を受けています。たとえ同じ種類でも、産地や生育環境などの条件の差によって、個の多様性が生じます。生薬を加工調整する過程においても多様性が生じます。『多様性』は漢方医学の原点であり、そこを再認識することで漢方を正しく理解し、よりよい運用に導こうというのが今大会のねらいです。」
 また、御影雅幸氏が能登でスタートさせた生薬栽培については次のように語っている。
 「日本は生薬資源の80%以上を主に中国に依存していますから、漢方の健全な運用のためにも、自給率を少しでも上げることに取り組む必要があります。生薬がなければ、治療ができません。私が昨年の後半から実際に薬草栽培に取り組んでいる能登の薬草園では、実がなったり、花が咲く薬草を栽培することにしています。たとえば桜(桜皮・オウヒ)は、20年ほどしたら収穫できますから、その間はお花見ができるでしょう。桃(桃仁・トウニン)、杏(杏仁・アンニン)は実がなりますから、いろいろな利用の仕方があります。たくさんの人の心が動くような取り組みにしたい。私たちは『花と実の薬草園』と呼んでいます。」
 さらに今大会で旗揚げする「漢方生薬ソムリエ」資格制度についても語っていただいた。
 「『漢方生薬ソムリエ』の発案者は、安井廣迪先生です。大会初日の8月31日(土)にみなさんに紹介して、その後の理事会で具体的なことを決定します。認定試験や研修会、講演会などを計画しています。日本生薬学会と日本薬剤師研修センターが主催している『漢方薬・生薬認定薬剤師』をフオローして、発展性をもたせる役割が担えるのでは、と考えています。漢方薬・生薬認定薬剤師制度を担当されている先生に相談したところ、とても喜んで賛成していただきました。すでに企業のご支援もいただいており、みんなで知恵を絞って活動をしていきたいと思っています。」
(詳細は本紙527号に掲載)




日本生薬学会第60回年会迫る
生薬国内生産の拠点、北海道で開催

 来る9月7日(土)、8日(日)の2日間、北海道医療大学当別キャンパス(札幌より45分)にて開催される日本生薬学会第60回年会のプロクラムが発表になった。
 高上馬希重実行委員長(北海道医療大学薬学部准教授)は生薬学について、「伝統的な生薬素材、天然物、構造解析、生物活性、薬理、生合成、形態、栽培、バイオテクノロジーを駆使したインフォマティクス、オミックスなどの研究と解明を通じて、生命科学の理解と人類の健康・幸福に貢献している。さらなる科学の探究、社会変革への対応、研究者の育成と教育・啓蒙の任も期待されるところ」と述べ、今大会での議論を深めるべく参加を呼びかけている。
 会長講演は「新しい医薬シーズの探索と標的分子探索」と題して小林資正氏(阪大院・薬)、特別講演は「漢方はオーケストラ——医療用漢方製剤の海外進出」と題して河野透氏(札幌東徳洲会病院先端外科センター)、シンポジウムは「アイヌの医療と利用植物」「生薬資源確保の現状と国際標準化の展望」の2セッションが企画された。一般講演は2日間で口頭79題、ポスター160題が発表される。
 大会終了後の9月10日(火)〜12日(木)には北海道大学にて第31回日本植物細胞分子生物学会大会が、13日(金)〜15日(日)には同じく北大にて日本植物学会第77回大会が連続して開催されることになっており、高上馬実行委員長は「薬用植物を研究対象とする会員の多い両学会との交流をはかる絶好の機会」として、同会への参加も呼び掛けている。
(本紙527号に掲載)




第23回漢方治療研究会
日本漢方のあるべき姿をもとめて
漢方の理念と特質を再確認する大会に

 東亜医学協会(花輪壽彦理事長、矢数圭堂会長)主催の第23回漢方治療研究会が、来る9月29日(日)、京都薬科大学「躬行館」において開催される。大会会頭は山崎正寿氏(聖光園細野診療所広島診療所所長)、顧問を中田敬吾氏(聖光園細野診療所理事長)、実行委員長は三谷和男氏(三谷ファミリークリニック)がそれぞれつとめる。
 4年ぶりの関西での開催となる今大会のテーマは「日本漢方のあるべき姿をもとめて」。会頭講演の演題は、「日本漢方のあり方——挈因命証について」。「挈因命証」は江戸中期の医家・中西深斎(1725〜1803)が著した『傷寒名数解』の巻四に記述がある。
 シンポジウムは「生薬の良薬とは」をテーマに姜東孝氏(栃本天海堂)と浅間宏志氏(日本漢方生薬製剤協会)が登壇。一般講演は15〜20題を予定している。スポンサードシンポジウムは、小太郎漢方製薬との共催で寺澤捷年氏(千葉中央メディカルセンター)が「心下支給——新たな腹候の発見」と題して講演する。
 参加費は一般5千円、学生1千円。参加者は日本薬剤師研修センター認定制度4単位、日本東洋医学会専門医制度10点が取得できる。
 問合せは東亜医学協会 TEL 03-3264-8410
(本紙526号に掲載)




ワークショップ「外科診療における漢方の役割」
第113回日本外科学会定期学術集会で

 福岡国際会議場など複数の会場で開催された第113回日本外科学会定期学術総会(4月11日(木)〜13 日(土)、延べ約13700人参加)の最終日に聞かれたワークショップ(WS-19)では、「外科診療における漢方の役割」をテーマに10人の医師が漢方方剤を用いた臨床研究の結果などを報告。総合討論では各施設での方剤の用い方や「漢方方剤をクリニカルパス(診療スケジュール)に積極的に入れるべきか」「今後の臨床研究のデザインはどうあるべきか」「東洋医学的にはどのような患者に投与されるのか」など、活発に意見が交わされた。
 「エキスパートに学ぶ日常診療」では、21名の外科各分野のエキスパートが30分ずつ2日間にわたり講演。漢方治療については河野透氏(札幌東徳洲会病院先端外科センター長)が「外科医に必要な漢方の知識」と題し、大建中湯、六君子湯、蜀薬甘草湯、牛車腎気丸、補中益気湯、十全人補湯、抑肝散、半夏瀉心湯などの頻用処方を概説した。
 前原喜彦大会会頭(九大大学院教授)は「外科領域の高度化、専門化、細分化が進む中、幅広くバ ランスのとれた学習の機会の提供はますます重要」として、今セッション単独での抄録集を作成。教科書的な冊子となった。内容は「内視鏡下鼠径ヘルニア根治術」「最新の創傷管理」「急性腹症における画像診断」「抗がん剤治療の基礎」など多岐にわたっている。
 最終日の招請講演では、詩人でタオイストの加島祥造氏(90歳)が今集会のテーマ「創始と継志」を受け、「私の内にある『創始』と『継志』」と題して講演。前原喜彦会頭(九大院第二外科教授)は今大会の意図を、「先達の努力により国民の健康福祉を向上させる技術が『創始』され、高い志による継承により進化させてきた近代外科学100年の歴史をさらに継続し、医療の質の向上に寄与する」と打ち出し、加島氏は老荘思想によってそれを伝えようとした。「タオイズム」は老荘思想をもとにした哲学であり、天地自然にそった行動や心の持ち方を身に付ければ、自分本来の生き方ができるとしている。
(本紙526号に掲載)




最新エビデンスによるがん領域での漢方の可能性
〜がん化学療法の副作用対策、米国が注目する臨床研究〜
第122回漢方医学フォーラム

 3月8日(水)、日本記者クラブ(千代田区)で聞かれたメディア向け講演会「第122回漢方医学フォーラム」では、河野透氏(北海道大学大学院薬学研究院招聘教員・客員准教授、札幌東徳洲会病院)が、大建中湯、半夏瀉心湯、抑肝散、六君子湯の4方剤で明らかになっているエビデンスを紹介。大建中傷の臨床試験がアメリカで行われるにいたった背景や経緯も紹介した。
 「FDA(米国食品医薬品局)が日本の漢方薬に期待を寄せるのは、安全性と信頼性の高さ」と河野氏は語る。'09年春に九州大学で聞かれた第109回日本外科学会定期学術集会では、メイヨークリニックのサール教授 (Michael G. Sarr)が招待講演の演者として来日。河野氏は、サール氏から別れ際に「自分が編集する『Surgery』誌の巻頭総説に漢方の総説を推薦したいので書くように」と勧められて投稿。「漢方の代替医療からの脱出(Exodus of Kampo, traditional Japanese medicine, from the complementary and alternative medicines: is it time yet?)」と題して出版された。
 かくして大建中湯(人参、山椒、乾姜、膠飴)は、FDAが臨床治験薬TU-100(ツムラTJ-100)として世界で初めて認可され、'11年からは全米20カ所の医療施設で中等度クローン病に対する臨床治験を進行させている。
 河野氏によると、米国は基礎、臨床の確かなエビデンスを求めており、大建中湯の有効性を示唆したエビデンスレベルの高い臨床データは、日本よりアメリカで先行しているという。新薬開発には膨大な費用がかかることから、安全かつ効果の高い植物薬を利用することで医療費を削減しようというねらいもある。
 大建中湯は日本で医療用漢方製剤として20年以上使用される中、副作用報告は46例。重篤な症例はなく、安全性がきわめて高い。腹部手術後の腸管癒着、過敏性腸症候群の一部、腹痛や腹鳴の強いものが適応となっており、現在医療用では最も使用量が多い。抗がん剤による麻痺性イレウスや腸液分泌型の下痢に奏効することも知られている。
 河野氏は、腸管神経の再生力と腸管血流の維持、狭窄を防ぐ工夫を加えたS式吻合法(Kono-Sanastomosis)を'03年に開発した外科手術のスペシャリストで、03年から11年までの吻合部狭窄による再手術は148例中0%という圧倒的な好成績を上げている。
(本紙526号に掲載)




第64回日本東洋医学会学術総会
「漢方“力”その技とサイエンス」
最先端の医学と漢方が融合伝統に根ざした生活習慣に

 第64回日本東洋医学会学術総会が5月31日(金)から3日間、城山観光ホテル(鹿児島市)において「漢方“力”その技とサイエンス」をテーマに開かれる。会頭をつとめる丸山征郎氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科システム血栓制御学(メディポリス連携医学)講座)は、「三人称の医学から二人称の医学へ」と題した会頭講演の中で、漢方医学のEBMの在り力を問い、特徴と展望を語る。今号では丸山氏に今大会のコンセプトと見どころについて話をうかがった。

 「現在、西洋医学流の数千人、一万人という大規模な治験が国をまたいで実施され、個一性を無視し、全体数を『n』として性別、年齢、国民性、民族性等は抜きにして、実薬とプラセボ薬の味や匂いを等しくしてEBMを確立しようとします。この手法がはたして漢方になじむか、という問題があります。漢方の『証』については、たとえば味や匂いも患者さんを治療する要素となります。患者さんは独特な香りによって服用の準備をします。それがとても大事です。EBMにばかり目を向けている現代の風潮に対して一石を投じたいのです。古くから伝統薬を製造しているメーカーヘのメッセージや励ましになればいいという思いもあります。」
 「今回は『気』に焦点をあてています。漢方医学には、西洋医学にない考え方があります。『気』は、『気持ちがいい』『陽気』『陰気』ということばがあるとおり、東洋人の感覚として存在しています。最近の脳科学の進歩によって、『気』の状態が科学化されつつあります。ファンクショナルMRIという手法で、『気』によって脳がどのように活性化されるかが明らかになっています。もう一つは、がんとの共生です。従来のようにがんを完全に撲滅するという治療の仕方ではなく、がんと共存しながら生きる方が、患者さんが苦しまず、長生きできるということがあります。高齢社会の問題も取り上げます。高齢者はさまざまな病気を持っていて、病態も多様ですから、症状別に治療薬を処方していたらたくさんの薬を服用することになり、医療費も高くなります。たとえば八味地黄丸は、腰痛、便秘、疲れなど、さまざまな症状を取り去りますから、漢方薬は、特に高齢者の治療には向いています。」
 「特別講演では、世界的な脳科学者の中田力先生が講演します。『医師は患者の病気の原因を探す犬のようでなければならない。犬は決して裏切らないし、鋭く問題点を追及する』といっておられます。患者さんとともにある優しさ、温かさを求めるのが医学という考えをもっておられる方です。もう一人の特別講演の演者は、私の恩師の井形昭弘先生です。井形先生は介護保険制度の創設に尽力した方で、『高齢化社会には夢がある』というお話をしていただきます。」
 「シンポジウムでは、がんとの共生、腸と脳との相関などのテーマがあります。脳腸相関についてお話しますと、ミミズの類は何でものみ込んで、自分に合うか合わないかは腸が考えます。自分に合わない場合は吐き出すか、肛門から出します。もともと腸には考える力があり、それが徐々に進化して、神経系は頭部に移動します。一部は頭が考え、腸も敵味方を判別する視点を持っています。脳と腸は、その判別を相関し、話し合いながら行っているのです。腸の調子が悪いと、気分が滅入ってきます。逆に心配事で常に頭を悩ませていると、下痢になったり便秘になったりします。そうしたことをテーマにしたシンポジウムのセッションを設けました。」
 「『生薬シンポジウム』も設けました。医師、薬剤師、生薬メーカー、行政担当者をシンポジストとして討論します。農村の休耕地を利用した生薬栽培のアイデアや課題についても話し合います。中国から輸入する生薬も値上がりして、生薬を扱うメーカーの経営は苦しい状況があります。国産の生薬を軌道に乗せることも考える必要があり、課題は山積みしていますが、生薬の国内栽培が農村の活性化にもつながれば、こんなにいいことはありません。」
(本紙525号に掲載)




日本薬学会第133年会
薬学の力の結集をめざす
「薬科学の底力」テーマに

 日本薬学会第133年会(西島正弘会頭)が3月27日(水)より30日(土)まで、パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。テーマは「薬科学の底力」。今回は基礎分野のレベルアップと、臨床薬学分野の底上げに焦点をあてた。
 特別講演は、2種の有機化合物から新しい化合物をつくりだすカップリングの研究でノーベル化学賞を受賞した根岸英一氏(米・パデュー大特別教授)と、iPS細胞の樹立に成功した山中伸弥氏(京大iPS細胞研究所所長)の2人のノーベル賞受賞者を招聘していたが、山中氏についてはノーベル生理学賞受賞決定以降、講演の依頼が殺到し、山中氏側で来年3月まですべての学協会での講演を行わないことになったため、当日は中畑龍俊氏(京大同副所長)がバトンタッチし、iPS細胞の臨床応用について講演。山中氏は冒頭15分間のビデオ出演となったが、会場は立ち見が出るほどの大盛況となった。
 特別企画のシンポジウムのうち、日韓薬学会合同シンポジウムは今回初開催となった。若手の発表の場として、大学院生2セッション、高校生1セッションが企画された。「華岡青洲の麻酔薬から考える江戸時代の医療」「葛根を無駄にしない方法」など、医学史、漢方生薬をテーマとした高校生の発表も行われた。
 今回企画された「オール薬学キックオフ」では、「日本薬学会が目指す薬剤師生涯研鑽作業班」の松木則夫氏が活動の趣旨を紹介。「薬学の力を結集すれば、医薬の創薬から臨床応用まで広く優秀な人材を輩出でき、各分野の進展の原動力となる」「専門薬剤師の認定制度は、知識や技能、態度などを一定レベルに引き上げる学部教育(受動的)と、学会活動ほかさまざまな要素を持つ生涯研鑽(能動的)との中間に位置しており、ともすれば単位修得に意識が傾き、能動的な自己研鑽に欠ける態度になりやすい」と述べ、意識変革の必要性を強調。薬剤師の個性を伸ばす形で研究成果の発表・研修の場を提供し、トップを引き上げ、学術文化の発展に寄与する役割を担う意義を論じた。
(本紙524号に掲載)




「大学卒前教育から卒直後教育まで
一貫性のある漢方医学教育を目指して」
KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM 2013

 2月2日(土)にカンポウ・メディカル・シンポジウム(主催・(株)ツムラ、(株)日経メディカル開発)が京王プラザホテルで開催された。
 大学卒前教育のセッションでは、東北大学大学院総合地域医療研修センター准教授の高山真氏が同大学病院漢方内科で行っている臨床実習について、同校医学部5年次に全科で実施している「臨床医学修練」(4〜6人グループの1日見学・実習)修了後のアンケート調査では、漢方の実習の評価は長らく低迷状態にあったが、同科が診療科として独立した'09年から'11年の3年間で、総合評価が各科平均より上回るようになったと報告した。さきの震災時には、巡回診療チームに2ヵ月で延べ38名の学生が同行。「即効性があり、漢方に対する印象が変わった」「患者を総合的に見ていく考え方が理解でき、漢方が役立つことがわかった」などの感想が上がっていたという。
 テーマを「これからの漢方医学教育のあり方」としたシンポジウムには柴原直利(富山大)、村松慎一(自治医大)、後藤英司(横浜市大)、神代龍吉(久留米大)各氏が登壇。冒頭、座長の佐藤達夫氏(有明医療大学学長)は、「'03年の今シンポジウムでの柴原氏の発表により時限数『8コマ』が定着した」と10年間を振り返り、今後に向けた検討を要請した。

 総合討論では、「患者の声を聴くことでモチベーションが上がる」(村松氏)、「実習中心。座学は最小限に」(後藤)、「漢方に通暁している医師による実習が理想。一方で、多数の医師が標準治療の中で使用している現場に接する機会も必要」(柴原)、「西洋医学の中に漢方の方剤が暴露されている講義が望ましい」(神代)などの意見があった。
 大学卒直後の研修医の教育のテーマとしたシンポジウムでは小林直人(愛媛大)、前原和平(JA白河厚生総合病院)、貝沼茂三(九大)、山脇正永(京都府大)各氏が講演した。その中で、前原氏は研修医の要望により漢方の系統的な講義を実施。修了後のアンケートでは、指導医を含む14人全員が「今後も希望する」と回答し、好評だった。
 また、貝沼茂三郎氏は、昨年8〜10月に全国の大学附属病院114施設の臨床研修センター(96施設)と薬剤部(43施設)に向けたアンケート「初期研修医に対する漢方医学教育の実態調査」の結果を報告。「東洋医学を学ぶ必要がある」との質問には「非常に思う」19%、「少し思う」66.3%、「研修2年間のうちに漢方治療の臨床実習を受けたいと非常に思う」16.3%、「少し思う」50%と、7〜8割以上が学ぶ必要性を感じていた。
 山脇正永氏は、京都府立大の「たすきがけ研修プログラム」(大学病院と協力病院との2年間の臨床研修教育)における研修医と指導医の漢方方剤の処方経験を調査した。これによると、医師歴10〜25年の指導医30名のうち約4分の3に漢方方剤の処方経験があったが、研修医が漢方方剤を処方していたのは17%。指導医中、「漢方の卒前教育を受けた」は10%、「卒後教育を受けた」は3%。研修医に方剤の処方指導を行っている指導医は13%、うち3人は卒前教育を受けた指導医だった。漢方方剤の処方経験がない研修医(全体の43%)は、「処方の機会がない」53%、「漢方薬がわからない」47%と回答した。
 総合討論では会場から「漢方の授業を増やすためにどこを減らすのか」「コマ数は総合的に検討されているのか」と質問。前段の卒前教育シンポジウムで座長をつとめた北村聖氏(東大)は、「最近の医学教育は、はじめに到達すべき山(医師像)を示し、登り方は自由。漢方やその他の専門的な分野の課目は、各校、各学生の特色として肯定的に考えられている」と回答。シンポジストらも「現在は、ひとつの症例に解剖学や生理学などを組み入れ、まとめて教えている。漢方もその一つ」(貝沼)、「漢方医学については社会的なニーズがあり、教育せざるを得ない」(山脇)など、北村氏のコメントを支持した。
 文部科学省医学教育課長の村田善則氏は、医学教育の課題として①医学教育の改革、②医学教育モデル・コア・カリキュラム、③臨床能力の向上、④グローバルな視点での医師養成、⑤研究医の養成、⑥地域医療支援システムの構築、を提示し、「いかに総合的な診療のできる医師を育てるか」を繰り返し強調。履修単位数の3分の1は各大学の独自性に期待し、学会との連携が学生の研究マインドを育てたり、具体的な教育手法や教材を学会側が提供することも歓迎しているとのこと。平成25年度は、高齢社会に対応した医学教育のあり方を調査する予定になっている。
(本紙524号に掲載)




生薬一味の意味を追及——全体をつかむために
「なぜ効くのか」「いかに効くのか」
鑑別を明確化して応用の幅広げる

 平成25年を迎え、鳥取市内で福田整形外科医院を開業する福田佳弘氏を訪ねてお話をうかがった。開業38年となる同院は、治療のほとんどを漢方処方で行っている。「治す医師」として信頼が厚く、調剤薬局は200種類以上の刻み生薬を常備している。
——先ほど、調剤薬局のたむら薬局を見学させていただきました。刻み生薬ほか、丸剤や軟膏も調製しておられましたね。
 福田「当初は、附子剤の丸薬が主でした。当時は、生の附子を使った症例報告はほとんどありませんでした。臨床データがなく、阪大の薬学部にお願いし、使用基準を求めて実験に参加しました。それから徐々に用いるようになったのです。」
——『漢方療法』(03年9月号、たにぐち書店)にお書きになった記事の中に「白通湯」 のことが記されていましたね。
 福田「『白通湯』は、私自身の病気に奏効した方剤です。50歳のころのある日、水瀉性下痢になって、1週間ほどふらふらになりながら仕事をしました。体重が2〜3キロ減りましたかね。4、5日目にふと白通湯が頭に浮かんで転方したところ、一剤で下痢が止まりました。それまで四逆湯を服用していて、普通なら治るのになぜ効かないのか、ずっと考えていました。この経験が契機となって、『少陰病・主薬方中における炙甘草の果たす役割について』を論文発表しました。」
——似たような効能を謳っている方剤は、選ぶのがむずかしいですね。
 福田「有名な漢方家の口訣にしたがって用いてもうまくいかない時もあり、その場合には理由を考える必要があります。『失敗学』が提唱するように、漢方も『なぜ効かなかったか』を追及し、原因を掘り下げることが重要です。ネガティブデータを集めて検討すると、その中に普遍的な真理があるはずです。」
——待合室に患者さんが大勢いらっしやいましたね。みなさん症状が取れて楽になるので集まってくるのでしょうね。
 福田「私は一度も医院の宣伝をしたことはありません。開業以来、新聞広告もしたことがない。鳥取で開業した岡先生にも、宣伝に頼らず、自分の力で患者さんと向き合えるように、難しい病気であっても避けずに立ち向かえと話しています。いまの社会は、危ないことは避けて通ろうとする傾向があります。何かあったら裁判になるので医療も萎縮医療になり、考え方に発展性がなくなるでしょう。医師という職業は、常に危険と背中合わせで、それが宿命なのですね。」
——人間関係もむずかしい時代になりました。医師と患者の良質な人間関係は、どのように構築すればいいのでしょうか。
 福田「その心がけは常に必要でしょう。医師としての腕を磨くことはもちろんですが、私は、患者さんが去る時の後姿を見るようにしています。舞台俳優でも、背中で演ずる役者は一流でしょう。人間の感情は、後姿、去る姿で推し量るのが一番いい。患者さんが診察室を出ていく姿に『おや?』と思った時、もう一度呼んでもらって話をするようにしています。そんな時、患者さんには何か胸に詰まっていることがあって、それを話します。常にそれを繰り返しています。漢方では、背部、背面を『太陽』、お腹の側を『陰』といいますから、『光背』(後光)は実際に人間が出しているのだろうと思います。」
——たくさんの貴重なお話をありがとうございました。(聞き手・田部井志保)
(インタビュウの全文は本紙523号に掲載)




KAMPO MEDICAL SYMPOSIUM2013
大学卒前教育から卒直後教育まで
一貫性のある漢方医学教育を目指して

 漢方医学の教育の充実をテーマに毎年開催している「カンポウ・メディカル・シンポジウム」(主催・(株)ツムラ、(株)日経メディカル開発)が2月2日(土)、今年も京王プラザホテルで開催され、約800名の医師、研究者が参集した。開会挨拶ではツムラの加藤照和社長が、「このシンポジウムが漢方医学教育の充実、定着、発展につながることを願う」と述べるとともに、同社の育薬5処方(大建中湯、抑肝散、六君子湯、牛車腎気丸、半夏瀉心湯)と推進のためのエビデンスの確率、漢方医学の国際化などに取り組んでいることを紹介した。
 今回はテーマを2つに分け、大学卒前教育について「何をどこまで教えるべきか」、卒直後研修医の教育の「現状と方向性」か検討。それぞれ4人の演者が講演し、総合討論を行った。
 教育講演の演者として文部科学省医学教育課課長の村田善則氏が招聘された。
(本紙523号に掲載)




第32回漢方学術大会開催

 1月20日(日)に慶應義塾大学薬学部芝共立キャンパ スで聞かれた日本漢方協会主催「第32回漢方学術大会」は参加者187名を集めて盛会となった。当日は特別講演3題、同会分科会から5題、一般発表7題、一言治験例3題の講演が行われた。
 熊本大学の礒濱洋一郎氏は、細胞への水の取り込みに関与している膜たんぱく質「アクアポリン」と漢方薬の利水作用に焦点をあて、五苓散、麦門冬湯、荊芥の薬効の根拠を実験結果から示した。
 東海大学の新井信氏は昨年7月の日本漢方協会主催「大黄自生地視察旅行」(8泊9日、青海省運市、22人参加)の団長をつとめた。講演では大黄の自生地にたどり着いた歓喜を自身の声で伝えた。現地は中国政府の方針で、1本抜いたら3本植える運動を徹底しており、10年前の写真と変わらない景観を保っていたという。大黄は局方では瀉下薬としてセンノシドAの含量のみで規定しているが、実際には抗菌、瘀血、腎不全の改善など、さまざまな作用があることに言及。透析の導入を遅らせる症例なども示した。
 アオキクリニックの二宮文乃氏は冷えを伴う皮膚疾患をテーマに講演した。人間には運動や暑さとは異なる掌蹠の発汗つまり自律神経の緊張による発汗があり、汗の蒸散による足の冷えが身体各所にさまざまな機能異常を生じさせている。講演では、こうした冷えに対して温理薬や理気薬を運用することで治癒した症例を示した。 (本紙523号に掲載)





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