編集/発行・漢方医薬新聞社 

476号(10年5月1日発行)〜479号(10年6月15日発行)

                           

第61回日本東洋医学会学術総会
基礎と臨床、国際色豊かな大会に
先端医療と伝統医学融合の意義、特別講演で

 去る6月4日(金)から6日間の3日間、名古屋国際会議場において第61回日本東洋医学会学術総会(佐藤祐造会頭)が開催され、参加者人数2791名と盛会となった。会場には、現代医療の中で活用されている漢方の意義や課題について講演や討議を行うセッションが広く設けられた。また2つの国際シンポジウムが企画され、豊かな国際色を見せた。特別講演は、内科領域から高久史麿氏(自治医科大学学長)、外科領域から北島政樹氏(国際医療福祉大学学長)がそれぞれ講演。先端医療と伝統医学が同じフィールドで用いられる日本の医療のあり方の意義を提示した。

 今年は、和田啓十郎著『医界之鉄椎』の出版100年にあたるため、会長講演では寺澤捷年会長が、〈漢方こそ統合的医療の根幹に据え置かれるべき〉と主張した『医界之鉄椎』に対して論理的に反論を加えた名古屋の小児科医・平出隆軒(ひらでりゅうけん)を紹介した。寺澤氏は、『医界之鉄椎』が科学的でないという平出氏の指摘は「今日のわれわれにも向けられている」としながらも、今日までにつまびらかになった漢方の科学的エビデンスをもとに当時の和田啓十郎に成り代わって平出隆軒の反論に答えた。また「漢方には漢方の理念があり、漢方と西洋医学ではパラダイム、考え方、土台が違う。科学で漢方を全て明らかにすることはできない」と述べ、会場の賛同者から拍手がわき起こった。

 また、今回の日本東洋医学会学術総会が明治の漢方復興運動に身を投じた浅井国幹の故郷・名古屋での開催にあたることから、浅井国幹顕影会会長の伊藤嘉紀氏(末盛クリニック院長)の記念講演が行われた。
 浅井国幹は、漢方医学史上忘れてはならない人物のひとりで、明治期に漢方排斥の政策が進む中、最後まで戦い矢尽き刀折れて、先祖代々の墓に向かって告墓文なる名文を残して世を去った。
 伊藤氏は、告墓文の一部を読み上げた後、「浅井家普大成」など浅井家の遺品が昭和の漢方復興運動の牽引者である故・矢数道明氏に引き継がれたことや、浅井国幹顕影会設立の経緯などを紹介した。会場では、顕影会の募金(1口3千円)も行われた。これは、浅井国幹顕影碑の修理などに充てられる。
(詳細は本紙479号に掲載)

郵送販売規制緩和、強く要望
漢方薬など医薬品の郵送販売継続を守る会と(社)日本漢方連盟

 一般用医薬品(大衆薬)の郵送販売規制がスタートして1年。インターネットや電話相談による郵送で購入していた利用者からさまざまな苦情があがる中、「漢方薬など医薬品の郵送販売継続を守る会」(根本幸夫代表)は、「(社)日本漢方連盟」を設立。6月1日(火)、「双方の組織に加盟する薬局1172店と漢方薬の郵送販売規制に反対する署名59165通の総意」として、郵送販売規制を緩和する要望書を、厚生労働大臣あてに署名とともに提出した。
 要望書では、利用者の窮状を訴えるとともに、漢方薬の郵送販売を安全に再開するためのルールを提案。「漢方薬について、初回は対面販売を行う。そして、その対面販売の記録が明記されている場合には、2回目以降の電話による郵送販売も認める。また漢方薬の販売に際しては、郵送においても店頭においてもその販売記録を残さねばならない」としている。
 一方、厚生労働省は、大衆薬の郵送販売を規制した薬事法改正省令の概要を同省ホームページに掲載。全国各地の保健所に苦情・相談窓口を設置し、同ページにて各所窓口の電話番号が閲覧できるほか、同省内担当窓口の電話番号や、販売方法の変更を顧客に告知するポスター、リーフレットも印刷できる。  http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/ippanyou/index.html
(詳細は本紙479号に掲載)

日韓4校の協力遂行を約束
WHO伝統医学研究協カセンター

 伝統医学研究協力センターに指定されている日韓の大学4校が相互協力を推進するとした覚書の調印式が、第61回日本東洋医学会学術総会の会期中、「全日空ホテルズ・ホテルグランコート名古屋」において行われた。
 この日は花輪壽彦氏(北里大学北里研究所東洋医学総合研究所長)、嶋田豊氏(富山大学大学院医学薬学研究部東西統合医療学域教授)、曺基湖氏(Ki-Ho Cho 慶煕大学校韓医科大学韓医学科教授)、金永植氏(Yeong-Shik Kim ソウル大学校薬学大学天然物科学研究所教授)の4校各代表が参集し、調印を行った。
 調印に先立ち挨拶した花輪氏は、この覚書を発案したのは曺氏であったことを紹介。「国際化の時代。緊密な連携のもとに国際会議や情報の共有、各種出版物の刊行、各国研究者の受け入れなど、できることを一緒にやろうということで集まった」と述べた。
(詳細は本紙479号に掲載)

「効くものは効く」でいい
"漢方の意味"を後押しする研究
生薬学の人々をつなぐ活動に

 今号では、荻原幸夫氏(元日本薬科大学教授)にお話をうかがった。荻原氏は、臨床応用に根差した生薬学研究を継続。研究活動のみならず、教育者として、関連学会の主要メンバーとして、厚生労働省をはじめとする漢方・生薬関連の行政専門委員会のメンバーとして、数多くの活動を継続してきた。現在は病気療養中で、復活の日が待たれている。6月3日(金)から3日間、名古屋で開催される第61回日本東洋医学会学術総会は、会頭を佐藤祐造氏がつとめるが、平成14年に開催された前回の名古屋大会(第53回)では荻原氏が会頭をつとめ、佐藤氏が準備委員長。今回の開催において佐藤氏が心を尽くしている「運営の継承」はここでも行われていた。これまで行政メンバー、研究者、学生、製薬メーカー諸氏など、数多くの人々との関係の中で力を尽くしてきた荻原氏が本紙に語った概要は次の通り(詳細は本紙478号に掲載)。

 「私(萩原)は、昭和36年に東京大学薬学部を卒業後、恩師の柴田承二教授の研究室に入り、イネの穂につく黒い菌の色素の構造研究を行いました。その後、漢方に入れ込むようになり、中国の桂林郊外で栽培される稲穂にも同じ菌あることを発見し、『バイ菌まで大陸から日本へ渡ってくるんだな』と、感激しました」
 「漢方の世界に入ったのは、自分の特徴を出すために新しいことをやってみようと決めて、1973年名古屋市立大学の教授として移ったときからです。日本の漢方はあくまでも経験医学です。このままではサイエンスが足りないから、現代の医学に取り込んでもらえるように、漢方処方の薬理作用を動物実験で明らかにしてデータを積み重ねていこうと、舵を切ったのです。
 最初に取り組んだ処方は、小柴胡湯です。マイトマイシンIIという制ガン剤を与えたマウスに、片方は小柴胡湯を、片方は普通の水を飲ませる実験をしました。マイトマイシンは副作用が強くて死ぬことが多いのですが、小柴胡湯の方は何匹かは生き残るんです。漢方薬って本当に効果があるんだなと、それから一層まじめに取り組みました」
 「たとえば、ステロイドには、抗炎症作用もありますが、副作用も大きい。マウスの足に炎症を起こしてステロイドを与えると炎症が抑えられるのですが、小柴胡湯を併用すると4分の1の量で同様の抗炎症作用が得られる。これはとてもきれいに結果がでました」
 「経験医学は、いろんな人体実験の集積ですから、科学的な証明がなくても、『効くものは効く』でいいんですよ、本来は。ただ、いまは科学万能の時代だから、必要悪として科学的証明を付け加えなければ信用してもらえない。漢方には、外国の科学の請け売りのサイエンスがないから、薬学界にも医学界にも漢方そのものを正当に評価することができないのです。どうしたら認知されるようになるのかと考えて、漢方薬・生薬認定薬剤師制度を立ち上げ、漢方薬や生薬、健康食品などの知識を啓発しようとはじめたところ、思った以上に活発になりました」
 「それから、処方を評価するための研究会を厚生省(当時)の後輩達と立ち上げました。これは薬局をいくつか選び、漢方処方を使っている薬剤師と患者の双方に問診をして評価するという研究会です。最初は、葛根湯と豬苓湯と加味逍遥散です。加味逍遥散は不定愁訴に非常によく効いています。豬苓湯も頻尿コントロールに良い結果を出しました」
 「国産生薬については、日本にたくさんある休耕田で、きちんと管理した種で栽培方法を標準化すれば、かなり品質のそろったものが得られるでしょう。漢方薬を日本の文化として残すなら、ある程度は税金で保証するということも考える必要があるでしょうね。だんだん若者が農業に興味を持ち出しているから、暗い話ばかりではないかもしれません」

 インタビュウー全文は「漢方医薬新聞」478号(6月1日号)をご覧下さい。

ラオスに現地法人設立、
不発弾撤去、中学校設立など貢献事業も
経営改善で堅調 ツムラ決算説明会

◆設備投資に伴う減価償却費増、研究開発費増あるも販管比率上昇とどめ
 (株)ツムラ(芳井順一社長)が2010年3月期の決算説明会を開催。売上高は約909億円(対前年比1%増)だったが、営業利益189億円(対前年比14.9%増)、営業利益率も20.8%と過去最高を記録した。
 この要因について芳井氏は、同社が注力している医療用漢方製剤の売り上げの伸長と、売上原価率、販管比率の改善によるものと説明した。
 設備投資に伴う減価償却費や研究開発費の増額など、コスト増加の要因があり、また売上数量が伸びても薬価が下落している状況もある。にもかかわらず、なぜ最高益を引き続き更新できるのかについては、生産効率の合理化と円高差益などとの相殺で、原価率の上昇が1.2%に留まっていることや、販管費の固定費の部分が、経営改善や合理化努力により、売り上げが伸長しても増加しないことから、販管費率が下がっているためと説明。同社では、毎年4月の年度当初に執行役員の会議を行い、業務目標を提示し、そこで各部署の経営改善目標を提示してスタートさせる。昨年度は9億6千万円の経営改善を実現したという。
 配当については、従来から増配基調に動いており、今年度も増配が見込まれている。
 同社は今年2月、生薬原料の安定供給の目的から生薬の産地をラオスに求め、現地法人「ラオツムラ」を設立している。主な事業内容は生薬栽培と生薬調整加工。栽培予定地(66ヘクタール)にベトナム戦争の際のクラスター爆弾が飛散した不発弾が残っており、同社が回収作業にあたることを決めた。また同地に中学校がないことから、同社が中学校を作ることも決定し、現地関係者に伝えたという。
 このほか3ヵ年計画で障害者雇用4%を目指すことや、現在、日本製薬団体連合会(日薬連)が従来から用いられ、今後新製品が開発されないと考えられている基礎的な医薬品の薬価を守ることを方針として打ち出しており、2年後の薬価を下げないことを目指すことを今後の活動方針として名言した。
◆中国政府・国家中医薬管理局「中成薬と漢方の違い」に理解示す
 また、中国が中医学をISO(国際標準化機構)の世界標準にする動きについて、芳井氏は今年3月に北京を訪れ、中国政府の国家中医薬管理局の責任者と懇談。「中成薬と、日本の漢方の処方薬は違うものだ」との説明を行い、理解を得たという。芳井氏は「中医学のISO化に関しては、日本の漢方薬は入らないと理解している」と述べた。


第61回日本東洋医学会学術総会
「21世紀における漢方医学・医療」
「古典と現代医学」「基礎と臨床」の対極に迫る

 6月4日(金)から3日間、第61回日本東洋医学会学術総会が名古屋国際会議場(名古屋市熱田区)で開催される。会頭をつとめるのは佐藤祐造氏(愛知学院大学)。昨年60回目という「還暦」の節目を迎えた同会は、今年度から新たなスタートを切ったとも言える。メインテーマを「21世紀における漢力医学・医療ーー基礎と臨床」とした今大会の見どころについて、佐藤会頭にお話を伺った。

 漢方薬の"創薬"は発見
ーー今大会のメインテーマは「21世紀における漢方医学・医療〜基礎と臨床〜」ということですが、どのような狙いがあるのですか。
 佐藤
 このテーマの意味は、いわゆる基礎研究と、臨床研究の両方について、漢方医学と西洋医学的な立場の双方から見るという意味です。
 漢方方剤の効果について検証した動物実験や成分解析などの結果と、実際に患者さんを診る臨床、古典と現代医学の融合を目指しています。
 例えば、漢方方剤で糖尿病の合併症が良くなるとか、インスリン抵抗性が改善されるといった結果を得た動物実験による基礎医学のデータがあります。インスリン抵抗性のあるモデルフラットに漢方方剤の牛車腎気丸を投与して、グルコースクランプ法を用いて評価すると、明らかな改善傾向が見られました。次いで行った臨床研究においても、同様の結果が得られました。
 牛車腎気丸は、従来高齢者の腎虚に用いられてきた薬ですが、糖尿病の神経障害から来る「しびれ」の症状に効果があることから、メコバラミン(末梢神経障害の治療薬)との比較試験も行っています。
 このように漢方方剤には、現代医学の中での投薬法や適応症を新たに発見する意味での"創薬"というものに、多くの可能性があります。
 今回の会頭講演では、そうした観点から「生活習慣病予防治療の新しい可能性を求めて」というテーマでお話させていただきます。(詳細は本紙477号に掲載)

第61回日本東洋医学会学術総会「主な講演と演者」については、こちらからダウンロードできます。

第36回日本小児東洋医学会学術集会
特別講演で「漢方薬のメカニズム」

 4月24日(土)、岩手県民情報交流センター(アイーナ)で開かれた第36回日本小児東洋医学会学術集会では、特別講演とシンポジウムが行われた。
 当日は60人余りの小児科医が会場を訪れた。
 シンポジウムの座長をつとめた永田紀四郎氏(永田小児科アレルギー科内科医院)は、「漢方は奥が深く、上手に用いると切れ味が素晴らしいことを体験する」と語った。シンポジウムでは小児疾患の漢方治療について4人の演者が講演し、質疑応答を行った。
 特別講演では、中畑則道氏(東北大学大学院教授)が『漢方薬は古くて新しい薬』と題し、自身の研究成果を紹介した。「たくさんの化合物と有効成分が含まれ、解析するには厄介な物質」と、漢方薬を解析する難しさを語ったが、「できれば分子のメカニズムを解明して漢方薬の全体像を明らかにしたい」「エビデンスの集積は漢方薬を使用する動機のひとつになる」として、科学的手法を用いた作用機序解析を目指した。
 中畑氏は葛根湯と桂枝湯が風邪を治癒する効果を解析するために、アスピリンの解熱作用で知られるプロスタグランジンE2の生合成抑制作用を検証。その結果、アスピリンと桂枝湯は長時間にわたり産生を抑制したが、葛根湯は短時間で抑制効果が消失。「実証と虚証の方剤の作用機序の相違は興味深い」と語り、短時間で効果が消失するところに葛根湯という方剤の意味がありそうだとする見解を示した。また「漢方薬は古い薬だが、その作用機序は最近の科学で明らかにされてきた新しいものであることが多い」と、解析の意義を語った。
 閉会式では秋期大会の会長をつとめる宮川三平氏(同会事務局長)が、今年の11月14日(日)に東京慈恵会医科大学で開催することを伝えた。(詳細は本紙476号に掲載)

ゲノム情報の臨床応用に出立
臨床ゲノム医療研究会発足

「ゲノム診断の普及を通じ、医療革新と国民の健康増進に貢献する」として渥美和彦(会長/東京大学名誉教授)、村松正實(顧問/東京大学名誉教授)が中心となって発足した臨床ゲ ノム医療研究会は4月28日(水)、プレスセミナーを開催した。
 ゲノムの基礎を解説する講演を行った村松正實氏は、「基礎研究ではかなりのスピードで解明されているゲノムをもっと臨床に応用すべき。そうした時代に備えてゲノムを学ぶ機会を増やす必要があると考え、この研究会に参加した」と述べた。演者の各10分ずつの講演の後、質疑応答が行われた。演者は渥美、村松両氏ほか、村松正明(東京医科歯科大学大学院教授)、藤崎浩治((株)ジーンサイエンス代表取締役)、阿部博幸(九段クリニック院長)、新谷悟(昭和大学歯学部口腔外科主任教授)各氏。同会は、第1回学術会議を5月23日(日) 10〜16時、東京大学鉄門記念講堂(医学部教育棟14F)にて開催する。(詳細は本紙476号に掲載)

OTC医薬品・健康食品の市場動向と今後の方向性
セルフメディケーションのトレンドを予測
ーー日本薬学会第130年会ランチョンセミナー

 日本薬学会では初めてのケースとなったマーケティングリサーチに関するランチョンセミナーが、大会二日目の3月29日(月)、岡山大学津島西キャンパスの創立50周年記念多目的ホールで開催された。このセミナーは、ナイシトール(防風通聖散)をはじめ、漢方薬への本格的な参入を始めた小林製薬との共催によるもので、マーケティングリサーチ業界のパイオニアとして知られる(株)インテージのSDI担当部長(薬剤師)時田悟氏が演者をつとめた。
 佐藤製薬出身でOTC(一般用医薬品)の現場に詳しい時田氏は「平成19年度のOTC医薬品の市場規模は5930億円、医療用医薬品は約10倍の5兆8280億円、この10年間OTC医薬品は前年割れが続く一方、医療用医薬品は右肩上がりで推移している」と数字で示し、次のように述べた。
「昨年度は大きなトピックスが2つあった。ひとつは20年ぶりとなる大がかりな薬事法改正。もうひとつは新型インフルエンザの流行。医療機関の受診者数は急増し、マスク、手指消毒剤、うがい薬など予防対策商品が売り上げを大きく伸ばしたが、風邪薬は不振だった」。
 時田氏はまた、「OTC市場が縮小している中、この5年間、女性用保健薬とともに漢方が伸び続けている。健康食品では、コラーゲン、グルコサミン、ヒアルロンサンが伸び、コエンザイムが急降下。漢方薬の伸びはメタボリックシンドローム対策として、防風通聖散の売り上げが拡大したことが、伸長の要因」と指摘。従来、防風通聖散といえば、ダイエット対策として若い女性がターゲットだったが、中高年の生活習慣病予防ヘシフトしたことが功を奏していると分析した。
(詳細は本紙476号に掲載)


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