編集/発行・漢方医薬新聞社 

480号(10年7月10日発行)〜483号(10年8月25日発行)

                         

第13回天然薬物研究方法論アカデミー
「漢方研究再考」
本音で議論——生薬と製剤と処方薬
エビデンスのあり方と薬学教育

 8月20日(土)、21日(日)の2日間、主として漢方薬など天然薬物の科学的研究の方法論をテーマとしている「第13回天然薬物研究方法論アカデミー覚王山シンポジウム」が名古屋市内で開催され、107名が参集。特別講演2題と2つのシンポジウム(10演題11演者)が行われる中で、活発な意見交換がなされた。

 今回は名古屋の薬学部4校と愛知県薬剤師会のメンバーが実行委員会に加わり、「漢方薬をいかに使うか、いかに創薬するか」ということにテーマが絞られた。世話人の井上誠氏(愛知学院大学)は「経口投与を原則とする複合製剤である漢方薬の研究は難しく、低迷している。現代科学の手法を用いて、生薬を複数調合する漢方薬の薬物動態、薬効、薬能、薬理の解析、さらには疾患モデル動物(あるいは「証モデル動物」)の作成などにより、漢方に対する理解が進むと考える」と語った。
 特別講演の演者をつとめた鳥居塚和生氏(昭和大)は、大学における漢方教育の標準化の必要性を論じるとともに、WHOが取り組んでいる伝統医学の国際的な標準化と、ISO内に伝統的中医学の国際規格に関する新規委員会が設立されたことなど、国際的にも伝統医学の標準化作業が進捗していることを報告した。
 これに関連して、シンポジストをつとめた元雄良治氏(金沢医大)も、最近の中国における伝統中医学(TCM)のISOへのアプローチの現状に触れ、「欧米各国では標準化関連団体や企業の代表がISO関連の国際会議に参加して対応しているが、日本は"日本東洋医学サミット会議"など学術団体のボランティア活動に頼っているのが現状。産学官一体となった対応が急務」と指摘した。
 同じく特別講演の演者の小松靖弘氏(サン自然薬研究所)は、実験に用いる方剤の標準化の必要性を論じ、「薬効薬理研究の情報から生物学的活性の規格設定の必要がある」とし、生薬の釣藤鈎が産地や種類の違いで異なる活性パターンを示すことや、甘草のグリチルリチン、麻黄のエフェドリン、人参・柴胡のサポニン類などの主成分だけでは生物活性や薬理効果が説明できないことから「生物学的活性の保証が必要」として、実験動物や疾患モデル動物の開発の現状を紹介。また「獣医臨床領域での臨床効果も期待できる」として、猪苓湯がネコの尿路結石に効果を示すことから実験。沢瀉が有効性を発揮して血尿が治まる可能性が示唆されていることを解説した。
 このほか、「漢方研究の現状と未来を考えるむ」と題した2つのシンポジウムでは、北里大学の清原寛章氏、ツムラ研究所の五十嵐康氏、岐阜薬科大学の稲垣直樹氏、富山大学和漢医薬学総合研究所の櫻井宏明氏、金沢医大の元雄良治氏、国立医薬品食品衛生研究所生薬部の袴塚高志氏、ハーブ調剤薬局の金兌勝氏、金沢大学医薬保健学域薬学類の三宅克典氏/河崎亮一氏などによる8演題が組まれた。
(詳細は本紙483号に掲載)

第27回和漢医薬学会学術大会
「和漢薬と生活習慣を科学する」
自然環境、資源確保、生活習慣病の視点から

第27回和漢医薬学会学術大会が8月28日(土)と29日(日)の2日間、京都薬科大学キャンパス(京都市山科区御陵中内町5)において開催される。今回のテーマは、「和漢薬と生活習慣を科学する」。特別講演3題、シンポジウム4題、ランチョンセミナーとポスター発表による一般講演が行われる。大会長をつとめる吉川雅之氏(京都薬科大学教授)は、「和漢生薬や漢方薬を含む天然医薬品領域の高度な科学的内容と臨床応用を含む格調高い発表を企画した。この分野の発展への寄与が期待できる」とコメント。今回の見どころについてお話しいただいた。

◆生薬資源確保に避けて通れない「環境」と「エコ」
 吉川「今回は、漢方薬を構成する生薬の資源確保のために、エコロジーの視点からのシンポジウム『エコと生薬資源』を企画いたしました。具体的には生薬の栽培化ですね。演者の方々から最近の研究を報告していただけると思います。長崎国際大学の正山征洋先生が、生薬のクローン栽培や、『ミサイルタイプ分子育種』といって、遺伝子を利用して成分含量をアップさせる育種法など、面白い栽培法を紹介します。また金沢大学の御影雅幸先生は、麻黄の研究と、海外の生薬資源の状態について報告します。一方、甘草に限定的した内容で、栃本天海堂の山本豊氏に中国での甘草の栽培について講演していただきます。最後に近畿大学の村岡修先生に、カンカニクジュヨウとサラシアの栽培について講演していただきます。」
◆生活習慣病への対策、生薬・方剤でさまざまに
 吉川「また、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に対する生薬や漢方薬の役割を考える目的で、『生活習慣病への対応』と題して、基礎と臨床の両面からのシンポジウムを企画しました。オーガナイザーは、京都医大の三谷和男先生と藍野病院の吉田麻美先生です。大阪大学の前田和久先生がメタボリックシンドロームに対する現代版食養生、吉田麻美先生が糖尿病に対する漢方処方薬の治験について、和歌山大学の別所寛人先生は、東西医学を融合した2型糖尿病の臨床報告をそれぞれ講演されます。」
◆特別講演は「がん治療薬」「ゲノム漢方」「糖尿病の食療法」の3演題
 吉川「特別講演では、大阪大学の小林資正先生が、がんに効果のある薬の話をします。また神戸大学の西尾久英先生は、臨床現場と基礎医学の研究室が連携したゲノム解析を臨床応用するという『ゲノム漢方医学』という新しい医学の形を紹介します。副作用が起こりやすい人や、薬物に対する反応の高低が遺伝子から判別できるというお話です。臨床医からの特別講演として、高雄病院の江部康二先生が、薬に頼らない糖尿病治療について講演します。いわゆる食療法ですね。」
◆依然として不十分な大学での漢方教育に対応
 吉川「一方、薬学教育が6年制となって長期実務実習も始まっていますが、生薬・漢方薬に関しては、薬学領域では非常に不十分な教育が続いております。そこで、漢方医薬学の教育に関するシンポジウムを昨年に引き続き行います。シンポジウム『漢方の卒後教育』では、座長を大阪大学の西田慎二先生がつとめ、まず私が『漢方薬・生薬認定薬剤師』について概説します。そして日本薬科大学の木村孟淳先生が『日本漢方交流会』の研究会や勉強会について、また昭和大学の鳥居塚和生先生と西田先生、神戸大学の西本隆先生が、それぞれ自身の大学で実践している研究会について、愛媛県立中央病院の山岡傳一郎先生が『四国漢方セミナー』について、活動を紹介します。」
◆現代病をテーマとした市民講座
 吉川「市民講座は高齢化社会をふまえ、『和漢薬で健康を守るチャンス!』として、3つの講演をお願いしました。
 今大会は、和漢薬や漢方薬の研究者だけでなく、民間薬、サプリメントなどに関心をお持ちの方々にご参集いただき、充実した学会が開催できますよう、関係者一同準備を進めております。」
(詳細は本紙482号に掲載)

生薬への関心高まる
薬用植物フォーラム2010
資源をどう確保するかーー現況把握に満場

 去る7月13日(火)、(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターが主催する「薬用植物フォーラム2010」が、つくば国際会議場で開催された。同研究所は平成17年に創立し6年目を迎えたが、挨拶に立った山西弘一理事長は、「ハトムギ新品種の『北のはと』をはじめ、多くの品種改良と登録ができ、5年間でかなりの成果を得たと喜んでいる。生物資源の中で薬用植物の研究は重要な位置を占め、歴史もある。本センターがさらに発展出来るようにしていきたい」と述べ、本年4月に行われた行政刷新会議の事業仕分けについても言及。多くの励ましとサポートがあったことに対して、感謝の言葉を述べた。

 フォーラムでは、7人の演者が講演。このうち同センターの成果と今後について報告した川原氏は、2545点の種子の新規保存と定期的な発芽試験をここ5年間で実施し、発芽率が低下したものは再生産を行うなど、遺伝子資源の保存を行っていることを紹介した。重要植物119種についてデータベースを作成、今年3月からインターネットで公開したと報告。また、研究分野では、3種の新品種『北のはと』『はとロマン』(いずれもハトムギ)『べにしずか』(芍薬)の育成に成功した。川原氏は、「生物多様性条約など、海外におけるナショナリズムの高まりの影響で、生薬が手に入りにくくなる。今後は、薬用植物の重点的確保・資源化と基準生薬の作成、薬用植物資源の戦略的確保、薬用植物の栽培技術の研究を行う。最終的には高品質な薬用植物の安定的な確保と供給貢献することを目的とする」と述べた。

 日本漢方生薬製剤協会(日漢協)の浅間宏志氏は、平成20年4月から1年間の医薬品原料生薬の使用量に関する調査結果を報告した。この調査は同協会が実施、回答率98.6%。日漢協加盟74社中73社が回答した。医薬品原料として使用する生薬276品目中、使用実績があった249品目を対象に数量と入手先国を調査した結果、総使用量約2万トン中、日本12%(1749トン)、中国83%(1万6196トン)、その他5%(966トン)。浅間氏は、「資源ナショナリズムが今後大きく影響していく可能性がある中で、このような基礎的なデータが非常に有効な情報の一つになり得ると考える」と述べ、活用を呼び掛けた。

 「生薬に関連する日本薬局方の変遷」と題して講演した岡田稔氏(高知県立牧野植物園研究部長)は、日本薬局方第7改正の頃から審議委員会に参加。「審議委員会は薬局方にあげられた生薬の良し悪しについて議論した。日本薬局方は生薬を扱うすべての方が基本とするもの。よりよい生薬が充実していくことを期待する。生薬の見分け、見極める力を十分に持っていただきたい。漢方の先生方と接してよい生薬を使用して欲しい」と述べ、よりよい生薬の流通に期待するとともに、「選品の目を養え、力をつけよ」と檄をとばした。

 「マオウに関する調査研究——日局収載品を中心としてーー」と題して講演した御影雅幸氏(金沢大学大学院自然科学研究科教授)は、シニカ、エクイセチナ、インテルメディアを中心にマオウに関する調査研究を紹介した。シニカは砂地、黄土、ガレ場に生育し、エクイセチナはガレ場、岩上のみに育成し、インテルメディアは乾燥した土地に適応している。アルカロイド含有はシニカ、インテルメディア、エクイセチナの順で高い。アルカロイドの含量と生育地の降雨量の関係について捨討したところ、降雨量の少ない土地で生育した株ほど含量が多くなると解説した。御影氏は「栽培したものではアルカロイドの含量が低くなることが問題となっているため、今後アルカロイドの含量を高める栽培技術の検討が必要である」と指摘した。

 「北海道研究部における薬用植物栽培研究について」と題して講演した柴田敏郎氏(薬用植物資源研究センター北海道研究部リーダー)は、持続的な供給と自給率の向上を目指した国内栽培の活性化に向けて北海道研究部が行っている取り組みを2つ紹介した。まず、生産コスト減を目指した既存農業機械の活用による薬用植物の省力栽培法。これは栽培の過程で行う播種、苗の堀上げ及び選別、苗の定植、収穫、残根の切断、収穫根の洗浄といった作業を既存の各種農業機械を活用して行うもの。2つ目は、新品種の育成と普及。ハトムギの新品種「北のはと」と芍薬の新品種「べにしずか」を紹介した。

 「シノ・ヒマラヤ地域における薬用植物 特にRheum属植物のフィールド調査」と題して講演した南基泰氏(中部大学応用生物学部教授)は、同地の中心部におけるダイオウの基原植物三種の調査研究から、葉緑体DNA多型によるRheum属植物の分子系統学的解析の結果を紹介した。「葉緑体DNA、ミトコンドリアDNA、核DNA遺伝子及び遺伝子間領域のDNA配列をダイレクトシーケンス法によって検討した結果、葉緑体DNA4領域よりDNA多型を検出。1領域のみでのDNA鑑定は不可能だが、4領域の各ハプロタイプを組み合わせることで種識別が可能になった」という。

 「甘草の栽培研究について」と題して講演した林茂樹氏(薬用植物資源研究センター北海道研究部)は、「現在100%輸入に依存している甘草の国内栽培実現には、大規模栽培化による生産コストの削減と、日本薬局方規格を満たす生薬生産法の確立が必要」と提言。生産コスト削減については「既存の農業機械が甘草栽培に応用できることが判明し、人件費の大幅な削減が可能になった。しかし、4年以上株では発達したストロン(走茎)が障害となるなど課題が残る」とした。「甘草の国内栽培はすぐに実現可能であるか」という会場からの質問に対しては、「まだ検討が必要」と答えた。
(詳細は本紙481号に掲載)

心の痛みと体の痛み、漢方で
第23回日本疼痛漢方研究会学術集会

 「心因性疼痛の漢方治療」をテーマとした今年の日本疼痛漢方研究会学術集会は、心の痛みが緩和されることで身体の痛みが癒えるという症例が多数報告され、心と体の切り離せない関係と病気との関連を改めて認識する講演会となった。7月10日(土)、コクヨホール(東京・品川)で行われた同会は、327名の医師が参集した。

 特別講演を行った埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科の大西秀樹医師は、「がん医療は著しい技術進歩を遂げたが、がんは年間100万人の死者数の約3分の1を占め、死因のトップとなっている。一方、がん患者の約半数に適応障害やうつ病、せん妄などの精神症状があり、これに気づいて治療介入することで、がん自体の治療がうまくいったり、終末期の過ごし方にプラスの影響が生じたりする」として、症例を提示しながら治療の在り方を論じた。
 大西医師は、がん宣告でうつ病になるケース、うつ症状を副作用と誤認するケースも少なくないという。うつを経験した人は、一様に「苦しかった」と語り、がん治療のための化学療法のほうが苦しいと答える人は皆無だそうだ。意思決定障害や治療方針の混乱がおこり、自殺とも関連する。がん患者の自殺は健常人の約8倍、うつ病を併発すると20倍になるという。
 また、大西医師は「がん患者の家族や遺族にもケアが必要」と指摘する。看病、治療決定、心理的負荷、経済的負担など、さまざまなストレスを受ける家族は、「第2の患者」と呼ばれ、その2〜4割に精神疾患があるという。家族が遺族になると、遺産や葬式、法事、両家の不満など、さまざまな問題が噴出し、男性は死亡率が40%上昇、精神疾患の罹患率も上がり、自殺も女性は10倍、男性は66倍高くなる現状があり、遺族にもケアが必要なことを指摘した。

 「疼痛性障害(身体表現性障害)の漢方治療」と題して教育講演を行った東京女子医大学東医療センター精神科の山田和男医師は、「疼痛を主訴する患者の中には、明らかな身体疾患を認めない人が40%もいる。この患者は"疼痛性障害"と呼ばれ、心因性疼痛や慢性疼痛ほか、頭痛、腹痛、腰痛(背部痛)、月経痛などにも含まれるものがある」として、漢方治療の有用性と注意点について、私見を交えて論じた。
 漢方薬の有用性については、次の3つを利点として挙げた。1)痛みにばかり注意が向くと治りにくいが、漢方薬を使用すると、漢方薬を飲む行為そのものに気持が向く。2)医師との信頼関係の構築に役立つ。患者を見捨てていないという証拠になる。3)穏やかな作用なので、薬物嗜癖を防止できる。
 山田医師は、患者の訴えの症状に応じて用いる漢方薬と、抗ストレス作用に重点を置いて用いる漢方薬の例を紹介した後、漢方治療の注意点として「2種類の漢方薬を各1カ月ずつ用いても無効な場合は、漢方治療に対する治療抵抗性と考え、抗うつ剤への切り替えを考慮すべき」と語った。
(詳細は本紙481号に掲載)

第8回慢性・難病フォーラム開催
ストレス社会の漢方治療に迫る
テーマは「胃の諸症」

 5月30日(日)に大阪で開催された第8回慢性難病フォーラム(日本漢方交流会主催)には、約200名が参集した。挨拶に立った吉本悟日本漢方交流会会長は、「この会は主に薬剤師、登録販売者のための会。積極的に勉強して、どんどん臨床に参加してほしい」と述べた。
 「慢性・難病フォーラム」は、薬剤師や鍼灸師が多数参加する学術集金で、治療に難渋する疾患の漢方療法の可能性を広く検討している。今回は「胃の諸症の漢方治療」と題して医師の二宮裕幸氏(二宮内科クリニック)と、鍼灸師で薬剤師の中川智代氏(正見堂薬局/日本漢方交流会副理事長)が基調講演を行った。

 基調講演では、二宮裕幸氏が「胃の諸症の漢方治療」と題して講演。「ローマII基準」と呼ばれる機能性消化管障害を段階的に分類した診断基準(自覚症状の分類系=胃食道逆流型、潰瘍症状型、運動不全型、非特異型)と分類の仕方を紹介。これまでGARD(びらん性胃食道逆流症)とNARD(非びらん性胃食道逆流症)は、以前は同じ胃炎に分類されていたが、その後、治療法や食事、喫煙などの生活習慣、体型、年齢層において、それぞれに特徴的な傾向があることが明らかになり、現在では別の病態と捉えられていることなど、国内外における胃・消化器症状と病症の捉え方に変遷があることが紹介された。
 漢方方剤の六君子湯(りっくんしとう)は、主にNARDの治療に用いられ、適応性弛緩反応の障害を改善することが基礎実験と臨床研究で明らかになっているとして、六君子湯や大連中湯の服用により諸症が改善された複数の症例を紹介した。
 また鍼灸師であり、薬剤師でもある中川智代氏は、「現代医学と漢方に生理や解剖の認識の違いがあるように、漢方(腸液)と鍼灸にも、同じ東洋医学でありながら人体観(整体観)の違いがある。たとえば『胃』とあっても、同様の部位や機能をあらわしていないことがある」として、「話していてもズレが生じている場合があり、この違いをはっきりさせないと伝わらないと感じる」と述べた。そうした観点から中川氏は、『黄帝内経』の「素問」「霊柩」の胃と三焦の概念を明確にすべく解説し、胃の病理を論じた。
(詳細は本紙480号に掲載)

第23回日本疼痛漢方研究会学術集会開催
東京品川・コクヨホール
テーマ「心因性疼痛の漢方治療」

 日本疼痛漢方研究会は、各科の医師が広く参集する研究会で、学術集会を毎年行っている。23回目を迎えた今回は「心」に視点を向けた。
 鍼治療の効果を実感し、漢方治療を実践して25年という林明宗会長(神奈川県立がんセンター脳神経外科)は、「脳神経外科外来の多くは頭痛、めまいなどの不定愁訴があって他科からまわってくる。ほんの少し漢方医学の知識があるだけで、救い得る患者さんが多数いることを痛感する」という。
 今回は、昨年の同会の「緩和医療と漢方」を受ける形で「患者の家族の『心』にも目を向ける」として、「心因性疼痛の漢方治療」がテーマとなった。
 当日は327名が参加。演者とのディスカッションも活発だった。一般講演は、心因性の舌痛、頭痛、腹痛、過敏性腸症候群、頻回の手術による術後ストレスや摂食困難、繊維筋痛症、帯状疱疹後の疼痛など多岐にわたった。
 シンポジウムでは、座長の有田英子、永田勝太郎両氏が、心身両面に働きかける漢方の効果とともに、「ドクター・ザ・メディスン(医師という薬の薬理作用)」にも言及。患者の側が痛みを客観的に捉えられるようになるところまで導く意義や、そのための医師の姿勢、治療の手法などについて、シンポジウムを総括する形で語られた。このほか、大西秀樹(埼玉医大)、山田和男(東京女子医大)両氏がそれぞれ特別講演、教育講演を行った。

第111回日本医史学会総会・学術大会
第2回日中韓医史学会合同シンポジウム
水戸で開催。中国・韓国の医史学者が参集

 第111回日本医史学会総会・学術大会(真柳誠会長・酒井シヅ理事長)は、6月11日(金)〜13日(日)に茨城大学水戸キャンパスで行われた。
 今回は初日に第2回日中韓医史学会合同シンポジウムが開かれ、中国、韓国、米国からの医史学者らも参加。『越境する伝統、飛翔する文化 漢字文化圏の医史』と題し、充実した講演と白熱した議論が行われた。  韓国からは安相佑氏(東医宝鑑機縁事業団長)が『韓国医学の形勢と東医宝鑑』と題して報告した。まず「全25巻、東洋医学を要約・集大成した書で、韓国の代表的な医学書だけではなく中国で30数回、日本では2回以上刊行されており、米国では、薬草編の一部が英語訳され、西洋にも紹介された。ユネスコの世界記録遺産として指定され、アジアの伝統医学の代表的な書物として知られる」と概略を解説した。
 一方、日本からは遠藤次郎氏(東京理科大学名誉教授)が曲直瀬道三(まなせどうさん 1507〜1594)の『啓迪集』(けいてきしゅう)をあげ、「中国の李朱医学を取り入れ、日本流を顕著に打ちだして後世方医学の端緒となり、曲直瀬玄朔、岡本玄冶、『衆方規矩』(しゅうほうきく)、『古今方彙』(ここんほうい)の中国医学の日本化を図った」と述べ、その源流を解説した。
 今回の会長をつとめた真柳誠氏(茨城大学教授)の講演のテーマは、『日韓越の医学と中国医書』。「書物は容易に国境を越えて流通し、複製される。このため中国を主とした漢字文化圏の医書は、およそ1500年以上にわたり相互に影響を及ぼしてきた。近世まで中国、日本、朝鮮半島、ベトナムでは同系の医療が行われ、現在も各国の伝統医療として存続している」。中国で生まれた医学が各国に枝分かれしたという表現もあるが真柳氏は、「正確には中国医学の森で生育した多様な樹木の果実が周辺にも運ばれ、各風土に適応する種だけ選択的に発芽、それは在来種と融合し、異なる台地の栄養で異なる森を形成したとみるべき」と言い表した。
 今回、会場となった水戸市にちなみ、筑波大学名誉教授・常盤大学コミュニティ振興学部教授・鈴木暎一氏が『水戸藩の医学と医療』と題して講演した。「9代藩主徳川斉昭によって設立された藩校・弘道館の敷地の一部には医学館が建てられた」と語る鈴木氏は、水戸藩の侍医として名を残すのは原南陽(はらなんよう)。天明7年(1787年)、小石川後楽園のある水戸藩江戸上屋敷にて侍医に採用され、水戸に移ってからも40年間、後進の指導にあたったことを紹介。「現在の健康保険適用のエキス漢方薬の中でも、『乙字湯』など原南陽の処方薬が残っている」という。また、「医学館には斉昭(徳川)が設立趣旨を書いた『賛天堂記』が掲げられた。この中では、外国に頼らず、わが国内で良薬を製する技術開発の急務を力説し、製薬局、調薬局、本草局を附属させ、薬草園のほかに、牛乳や牛酪を作るために牛も飼育。攘夷派の水戸藩は、医薬面においても外国を廃する独立した医療を目指していた」と報告した。(詳細は本紙480号に掲載)


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