生薬への関心高まる
薬用植物フォーラム2010
資源をどう確保するかーー現況把握に満場
去る7月13日(火)、(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターが主催する「薬用植物フォーラム2010」が、つくば国際会議場で開催された。同研究所は平成17年に創立し6年目を迎えたが、挨拶に立った山西弘一理事長は、「ハトムギ新品種の『北のはと』をはじめ、多くの品種改良と登録ができ、5年間でかなりの成果を得たと喜んでいる。生物資源の中で薬用植物の研究は重要な位置を占め、歴史もある。本センターがさらに発展出来るようにしていきたい」と述べ、本年4月に行われた行政刷新会議の事業仕分けについても言及。多くの励ましとサポートがあったことに対して、感謝の言葉を述べた。
フォーラムでは、7人の演者が講演。このうち同センターの成果と今後について報告した川原氏は、2545点の種子の新規保存と定期的な発芽試験をここ5年間で実施し、発芽率が低下したものは再生産を行うなど、遺伝子資源の保存を行っていることを紹介した。重要植物119種についてデータベースを作成、今年3月からインターネットで公開したと報告。また、研究分野では、3種の新品種『北のはと』『はとロマン』(いずれもハトムギ)『べにしずか』(芍薬)の育成に成功した。川原氏は、「生物多様性条約など、海外におけるナショナリズムの高まりの影響で、生薬が手に入りにくくなる。今後は、薬用植物の重点的確保・資源化と基準生薬の作成、薬用植物資源の戦略的確保、薬用植物の栽培技術の研究を行う。最終的には高品質な薬用植物の安定的な確保と供給貢献することを目的とする」と述べた。
日本漢方生薬製剤協会(日漢協)の浅間宏志氏は、平成20年4月から1年間の医薬品原料生薬の使用量に関する調査結果を報告した。この調査は同協会が実施、回答率98.6%。日漢協加盟74社中73社が回答した。医薬品原料として使用する生薬276品目中、使用実績があった249品目を対象に数量と入手先国を調査した結果、総使用量約2万トン中、日本12%(1749トン)、中国83%(1万6196トン)、その他5%(966トン)。浅間氏は、「資源ナショナリズムが今後大きく影響していく可能性がある中で、このような基礎的なデータが非常に有効な情報の一つになり得ると考える」と述べ、活用を呼び掛けた。
「生薬に関連する日本薬局方の変遷」と題して講演した岡田稔氏(高知県立牧野植物園研究部長)は、日本薬局方第7改正の頃から審議委員会に参加。「審議委員会は薬局方にあげられた生薬の良し悪しについて議論した。日本薬局方は生薬を扱うすべての方が基本とするもの。よりよい生薬が充実していくことを期待する。生薬の見分け、見極める力を十分に持っていただきたい。漢方の先生方と接してよい生薬を使用して欲しい」と述べ、よりよい生薬の流通に期待するとともに、「選品の目を養え、力をつけよ」と檄をとばした。
「マオウに関する調査研究——日局収載品を中心としてーー」と題して講演した御影雅幸氏(金沢大学大学院自然科学研究科教授)は、シニカ、エクイセチナ、インテルメディアを中心にマオウに関する調査研究を紹介した。シニカは砂地、黄土、ガレ場に生育し、エクイセチナはガレ場、岩上のみに育成し、インテルメディアは乾燥した土地に適応している。アルカロイド含有はシニカ、インテルメディア、エクイセチナの順で高い。アルカロイドの含量と生育地の降雨量の関係について捨討したところ、降雨量の少ない土地で生育した株ほど含量が多くなると解説した。御影氏は「栽培したものではアルカロイドの含量が低くなることが問題となっているため、今後アルカロイドの含量を高める栽培技術の検討が必要である」と指摘した。
「北海道研究部における薬用植物栽培研究について」と題して講演した柴田敏郎氏(薬用植物資源研究センター北海道研究部リーダー)は、持続的な供給と自給率の向上を目指した国内栽培の活性化に向けて北海道研究部が行っている取り組みを2つ紹介した。まず、生産コスト減を目指した既存農業機械の活用による薬用植物の省力栽培法。これは栽培の過程で行う播種、苗の堀上げ及び選別、苗の定植、収穫、残根の切断、収穫根の洗浄といった作業を既存の各種農業機械を活用して行うもの。2つ目は、新品種の育成と普及。ハトムギの新品種「北のはと」と芍薬の新品種「べにしずか」を紹介した。
「シノ・ヒマラヤ地域における薬用植物 特にRheum属植物のフィールド調査」と題して講演した南基泰氏(中部大学応用生物学部教授)は、同地の中心部におけるダイオウの基原植物三種の調査研究から、葉緑体DNA多型によるRheum属植物の分子系統学的解析の結果を紹介した。「葉緑体DNA、ミトコンドリアDNA、核DNA遺伝子及び遺伝子間領域のDNA配列をダイレクトシーケンス法によって検討した結果、葉緑体DNA4領域よりDNA多型を検出。1領域のみでのDNA鑑定は不可能だが、4領域の各ハプロタイプを組み合わせることで種識別が可能になった」という。
「甘草の栽培研究について」と題して講演した林茂樹氏(薬用植物資源研究センター北海道研究部)は、「現在100%輸入に依存している甘草の国内栽培実現には、大規模栽培化による生産コストの削減と、日本薬局方規格を満たす生薬生産法の確立が必要」と提言。生産コスト削減については「既存の農業機械が甘草栽培に応用できることが判明し、人件費の大幅な削減が可能になった。しかし、4年以上株では発達したストロン(走茎)が障害となるなど課題が残る」とした。「甘草の国内栽培はすぐに実現可能であるか」という会場からの質問に対しては、「まだ検討が必要」と答えた。 (詳細は本紙481号に掲載)
|