11月11日から行われている内閣府の行政刷新会議による事業仕分け作業では、漢方薬等の市販品類似薬を保険適用外とする方向性が打ち出され、波紋を呼んでいる。民主党のマニフェストでは『統合医療の確立ならびに推進』を掲げており、業界関係者は「信じられない」と驚きの声をあげた。
◆仕分け作業は最終決定ではない
「事業仕分け」は、政府の行政刷新会議の下、予算の無駄を洗い出すことを目的として、11日から東京都新宿区の国立印刷局市ケ谷センター体育館において公開作業で始まった。医療予算については健康増進対策費ほか、診療報酬明細書(レセプト)のオンライン化のための機器整備補助費について、10年度予算への計上を見送るべきだとしたが、この中で、漢方薬を含む市販品類似薬を保険適用外とする方向性が打ち出された。
これについて、医療用漢方製剤のシェア80%以上を占める(株)ツムラの芳井順一社長(写真)は、翌12日に行われた同社2010年3月期の中間決算報告会の席上、「現在の仕分け作業は最終決定ではなく、最終的には内閣府によって決定される。この件については楽観視している」と答え、その理由を次のように述べた。
「民主党は野党のころから伝統医学に対して前向き。『漢方医学の勉強会を、長期的に継続開催してほしい』とのことで、日本漢方生薬製剤協会が対応にあたっている。同党は漢方医学の小委員会を作り、現文部科学副大臣の鈴木寛議員が委員長をつとめている。この委員会では、漢方医学教育のさらなる充実、地域の漢方医療拠点の整備、漢方医学の啓発活動の促進を目指しており、これらは民主党のマニフェストに明記されている」。
◆保険適用から外したら、何が起きるか知らないだけ
さらに芳井社長は、「もし漢方製剤が保険適用処方から外れた場合、当社ツムラは間違いなく廃業となる。漢方製剤の供給がストップすれば、日本の漢方医学そのものが消えてなくなる。
たとえば「大建中湯」(だいけんちゅうとう)は、現在年間70億円近く売上げがあり、現在80大学ある大学病院のすべてが用いている。なぜかというと、この方剤は術後の腸管の麻痺を回復させて蠕動運動を促し、実際に入院日数を短縮させているから。外科領域において、医療費削減と患者さんの早期回復の双方に貢献する漢方製剤の用いられ方が定着した例であり、処方することを定めている大学病院もある(クリニカルパス)。
また認知症による幻覚や妄想、興奮などの周辺症状を緩和する「抑肝散」(よっかんさん)の売上げが極度に伸長しているのは、服用した患者さんたちが、実際に落ち着いて生活できているからだ。
こうした症例を多くの医師が体験して、処方されるようになった。これらが医療現場で使えなくなるということは、この2処方だけ見ても、多くの国民にとっての損失であることは明白。
今回の仕分け作業の判定は、こうした現状を単に知らなかった人による議論だったことによるもので、医療用漢方製剤が保険適用から外れることの意味をよく理解すれば自ずとわかるはず」と説明した。
◆署名、12月7日まで
(社)日本東洋医学会(寺澤捷年会長)、日本臨床漢方医会(石川友章理事長)、NPO健康医療開発機構(武藤徹一郎理事長)、医療志民の会(木戸寛孝事務局長)は20日から署名運動を開始。署名用紙は各会で発行し郵送、FAXにて回収((社)日本東洋医学会〒105-0022港区海岸1丁目9-18国際浜松町ビル6階TEL03-5733-5060、FAX03-5733-5078)ほか、電子署名を行っている。フォーマットはhttp://kampo.umin.jp/
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署名呼び掛け---21世紀漢方フォーラム
◆現代医療の中の漢方の有用性訴える
11月20日(金)に行われた第4回21世紀漢方フォーラム(主催・NPO健康医療開発機構、医療志民の会、慶応義塾大学医学部漢方医学センター)では、『臨床研究・予防・治療技術開発研究推進事業、研究成果等普及啓発事業「主観的個別化患者情報のデータマイニングによる漢方・鍼灸の新規エビデンスの創出」』と題して伝統医学の自動問診システムの成果と現状が報告されたが、この会場でも今回の仕分け作業の漢方製剤保険外の取り決めに異論を唱えるべく「これからも漢方が健康保険で使えるように」と銘打った署名が呼びかけられた。
また来る12月10日(木)に第5回21世紀漢方フォーラム「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生」を開催。「今こそ漢方を活用した『日本型医療』を創生すべき」との論点だが、今回の仕分け作業の結果を受けた内容になることが予想される。開催概要は次の通り。
【日時】12月10日(木)18時〜20時 ※参加無料
【場所】慶応義塾大学医学部北里講堂(JR信濃町駅前、同大学病院構内)
【定員】150名(定員次第締切)
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