第49回 黄連(その四)
日本の生薬需要の大半は中国からの輸入に依存していることからも、また中国の主要都市に大きな生薬市場が存在して、日々膨大な量の生薬が流通している点からみても、かねがねこと生薬に関する限り、中国は間違いなく生薬先進国であると考えてきていた。
中国黄連の味連と雅連の現地調査を終えて重慶で一泊、そのあと四川省での黄連の一大生産地を見学して、やはり中国は生薬先進国の感を深くした。
重慶から長江沿いの道を下り、忠県で長江を跨いでいる未完成工事中の橋をさっさと車が渡ってしまったのに驚き乍ら、南岸の石忠県黄水市に入る。町の入口に「中国黄連之郷歡迎」の大アーチが迎えてくれる。ここは標高千四百米の高原地帯で黄連栽培の適地、1年間二百トンの黄連を生産しているという。
ゆるい起伏の緑の林のなかに、茶色の個所があちこちにみえるのが黄連の畑で、ここでは遮光に寒冷紗を使用せず、付近に多い松杉の小枝を畑の上にわたして遮光している。小枝は枯れて茶色に見えるのである。
黄連の年間生産量二百トンとは立派な地方産業だが、この黄水には重慶市科学委員会、重慶市中葯研究院、石柱県人民政府の三者で運営している「黄連栽培示範センター」という施設があり、二ヘクタールの地に一年生、二年生、三年生、四年生、から五年生までの試験圃場があり、いずれも各種施肥別に150平米程の地に黄連を植えて生育状況を観察している。この試験場圃場の上の遮光にも松杉の小枝をさしわたして使っている。 感心したのはいずれの圃場にも1平米に一本づつ杉の苗木を植えて育てていることであった。四年かけて黄連収穫後、連作は出来ないので、その後は杉の植林にかえて、土地の有効活用をはかっているそうである。
現在の石柱県の黄連の栽培面積は五万ムー(1ムーは日本の二百坪、六百六十平米)で全国の黄連栽培の40%を占めており、日本はじめ東南アジアから世界へと輸出されているとの説明を受けた。栽培の大半は味連である。 日本にも厚労省の薬用植物栽培試験場がいくつかあるが、一生薬の黄連だけでこれだけ力を入れて栽培の研究をされている施設は知らない。
吾々一行を案内してくださったのは、重慶市中葯研究院々長の鐘国躍氏であるが、重慶の長江南岸のこの施設も、薬用植物園を持つ恵まれた設備のなか、二百五十名の職員が、それぞれの分野の研究に励んでいる。私が見学させていただいた時は、冬虫夏草の人工栽培の研究をされていたのが印象に残った。そのうち人工栽培の冬虫夏草が市場を賑わすようになるかもしれない。
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