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秀れた医師を生み出す
「自治医科大学」の増設を

今年は早咲きの桜と大学の卒業式が重なった。桜の季節に日本全国の医科大学、大学医学部から新卒の医師が巣立って行った。個人的事情であるが、今春はその中で「自治医科大学」の存在が強く印象づけられた。
 個人的事情とは、たまたま知人の長男が「自治医科大学」を卒業したのである。国家試験も無事合格、希望に満ちた青年医師として巣立っていった。

この青年医師についてはいくつかの物語がある。少年時代に遡るが、中学時代に日本沿岸でロシアタンカーによる重油の流失事故が起きた。 日本海は黒い汚染された海となり、それが海岸に押し寄せて死の海の様相を呈した。漁民は勿論、日本中からボランティアが駆けつけて汚染された油の海泥の排除に懸命となったが、少年も重油の排除のボランティアを志願して単身現地に出かけて助っ人として活躍し賞讃された。

少年の夢は医師になることであった。努力家であった少年は、中学卒業時は学校総代であった。高校はそのまま日比谷高校に進んだが、もし「自治医科大学」という存在がなければ「とても本人の希望通り医科大学への進学はかなわなかったでしょう」と知人は逑懐していた。
 いま、卒業してあいさつに来たこの青年医師を見るにつけ「自治医科大学」の存在が強く印象される。稀に見る親孝行息子、そして社会奉仕の熱い想いを内在させている青年医師への期待は大きく膨らむ。

自治医科大学の大きな特色は、授業料を全額免除されることである。学校推薦であるが勿論試験はある。各都道府県から2〜3名が選抜される。定員は1学年100名である。契約により卒業後9年間の地元及び僻地勤務義務づけられている。
 いま医学教育はさまざまな問題が内包されている。まず何よりも貧乏人が入学できないことである。そこから派生する人格の歪みが生まれ易いという制度上の欠陥がある。生命と扱う医師の人格づくりに誤りが生じ易い。医療が本質的に持たねばならない「生命の教えに従う」という人格形成は大丈夫かと思う。
 医療の向上は一つには医師の人間教育に負う所大である。自治医科大学はオーソドックスでない一つの実験教育機関であるが、それ故にノッペラポーではない個性のある思いで形成された魂を内包した、向上心の強い青年医師が巣立っているにちがいない。そして日本の医療の隅々を充実させる役割を果たしている筈である。優れた医師を生み出す「自治医科大学」の増設をこそ望みたい。

No.389[2006年4月25日号]  
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