【この本の概要】
「独裁と戦争からの解放−−この永遠の難題をめぐって神々は天と地と黄泉の国を舞台に、運命的な変容を遂げていく」というのが、著者・佐賀純一氏の古事記に対する視座です。その見地から古事記全体を見渡して、古事記が発しているメッセージを論述したのが本書です。
『変容する神々』のユニークさは次の諸点にあります。
1.古事記上巻を神々の誕生の世界から理想国家樹立に至るまでの道筋を物語ったものとみなし、これに対して、中巻・下巻は帝紀・旧辞などに記録された史実であるとして、古事記上巻の理念を徹底的に追求していること。
2.神話に登場する神々の神格が、他の神話には見ることのできない『変容する』ものであることを明らかにし、変容の論理と方向性を解明したこと。
3.邇邇芸命(ににぎのみこと)の降臨から火遠理命(ほおりのみこと)の即位までの物語が、神話における未完の部分を補完した形になっていることを証明したこと。
【目次】
第1章 愛の国から死の国への転落
1.イザナミの劫罰
手持ちぶさたな独り神とイザナミの出現まで/神々の無力の証明=蛭子/イザナミの変容/最初の子殺し−−嘆きと憎悪の誕生/火の神のの屍から戦争の神々が…/「触れによる場の歪みと神格の変容」という思想/触れ合うことによる存在の変容/戦乱をもたらした者/火の神を生むという大罪/死んでなお辱められたイザナミ/変わらぬ愛と憎悪に変わる愛/死をもたらす女神の叫び
2.独裁者=イザナミの恨みを嗣ぐ者
スサノオの本性/スサノオの反逆/武装するアマテラス/占いの落とし穴/神秘主義との決別/独裁から合議制へ
3.スサノオの変容…独裁者→罪人→英雄→王
合議による追放の刑/五穀を宿した女神の死/愛の目覚めと歌の始まり/物語の円環性
4.アマテラスと対決する大国主神
大戦の始まりとアマテラスの敗北/日本最初の悲しい恋物語/高天原と出雲の国家体制の相違/絶望から復活した大王/建御雷神の出陣/皇子の軍事大権の剥奪/「国譲り」という最高の戦略/軍神の排除
第2章 理想的国家の姿とは
邇邇芸命(ににぎのみこと)の降臨/邇邇芸命の支配は海の底にまで及ぶこと/邇邇芸命の支配は国土の端まで及んでいること/死の由来・イザナミの呪いからの解放/天皇の子は火の中に生まれても、火の神のような禍の神にはならないこと/天皇の威勢はあの世にも及んでいること/和歌こそが平和と理想国家へ導く力であること
第3章 古事記 中巻〜天皇・戦い・歌
初代 神武天皇
時代の特色/歌/皇后の選定/皇継争い
第10代 崇神天皇
崇り/三輪山伝説/皇継をめぐる争い
第11代 垂仁天皇
時代の特徴/三角関係と皇継争い/口をきかない御子にまつわる話/常世の国と「時じくの香くの木の実」
第12代 景行天皇
ヤマトタケル/5つの顔をもつ英雄/愛の歌
第14代 仲哀天皇と神功皇后
天皇と皇后の争い/朝鮮出兵/皇子たちの反逆/勝利の美酒の歌
第15代 応神天皇
渡来人と文化/豊かさとユーモアの歌
第4章 古事記 下巻〜陰謀と内乱
第16代 仁徳天皇
即位までの内乱/天皇と女性たち/無残な事件/事業/詠み人知らずの琴の歌
第17代 履中天皇
天皇と皇子の権力闘争/逃亡の歌
第19代 允恭天皇
許されぬ兄妹の恋/歌
第20代 安康天皇
陰惨な時代−−殺戮の連鎖
第21代 雄略天皇
神との対決/歌/歌に救われた采女の話
第23・24代 顕宗・仁賢天皇
牛飼い・馬飼いから天皇に/歌垣の場の勢力争い
第25代 武烈天皇−−皇系の滅亡
第26代 継体天皇
第5章 天智・天武の抗争と古事記の役割
史実を記載しなかった理由
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