編集/発行・漢方医薬新聞社 

465号(09年11月25日発行)〜468号(09年12月25日発行)

                                   

漢方薬の保険適用「継続」で決着
来年度予算案を閣議決定
国民医療としての「漢方」を業界全体で守るとき

 鳩山政権は25日(金)、来年度予算案を閣議決定し、漢方薬の保険適用については今回は「継続」ということで決着した。同じ場で審議された湿布薬とうがい薬についても、従前通り、保険が適用されることで予算案が決定した。
 「事業仕分け」のムチを受けた数多くの事業の中で、924,808名という数の署名を集め、国民の声を形にしたのは漢方だけだった。
 漢方の有用性については、使って知っている人にとっては疑う余地がないほど明らかなのだが、知らない人は理解しにくいという側面がある。今後は業界として、政府、行政の真の理解を得るべく、一般用医薬品も含めた漢方・生薬製剤と生薬原料についての適切な情報提示や、医療全体あるいは国家や社会全体の利益につながるような方策を積極的に提案していくことが必要と言えるだろう。
(詳細は本紙468号に掲載)

江戸の本草家の実情・薬局漢方を展望する
--第29回漢方学術大会 特別講演2題

 第29回漢方学術大会(主催・日本漢方協会、大会委員長飯島弘氏・実行委員長小根山隆祥氏)は、11月15日(日)、東京八重洲ホールで聞かれ、各分科会の報告および特別講演が行われた。
 今回の特別講演は、東京大学名誉教授で東京大学総合研究博物館特招研究員の大場秀章氏の『江戸時代本草家の植物見立て』と日本薬科大教授・丁宗鐡氏の『薬局漢方を展望する』の2題。
 漢方医学の薬物治療では生薬=植物資源の活用が中心になるが、輸入生薬が8割超となっている現在、今後の資源確保の観点から江戸期の植物学を検証することは大きな意味がある。江戸期の特徴として大場氏は「250年の間、大きな内乱がない世界的にも稀な平和な時代の継続。徳川家康が特に健康に関心を持ち、本草書を所持、政策として本草学を重んじたこと。家康が手本としたのは李時珍が著した『本草綱目』」と語った。
 『薬局漢方を展望する』の演題で講演した丁宗鐡氏は「薬剤師が漢方薬と関わることは、単に伝統製剤を使うということだけではない。医療崩壊が叫ばれ、その再生には薬剤師、特に漢方が果たす役割は大きい」と、日本の医療再生に向けて薬局漢方の将来像を語った。(詳細は本紙468号に掲載)

「働く女性のメンタルヘルス」テーマに
日本漢方生薬製剤協会
第12回市民公開漢方セミナー

 医師の約8割が漢方方剤を処方し、わが国のすべての医学部・医科大学で漢方医学の教育が実施されている今日、身近な医療として漢方への期待が高まっている。この漢方の基礎知識をわかりやすく講演し、漢方の普及をめざす日本漢方生薬製剤協会主催の第12回市民公開漢方セミナーが、10月15日(木)、都内中央区の浜離宮朝日ホールで開催された。
 今回のテーマは「働く女性のメンタルヘルス」。鬱など心に起因する症状に悩む人が増えている今日、会場には働く女性をはじめ多くの女性が詰めかけ盛況となった。
 セミナーでは、最初に日本漢方生薬製剤協会の芳井順一会長((株)ツムラ社長)が開会挨拶。新薬メーカーから現在の漢方メーカーに移った経歴を持つ芳井会長は、「新薬とは違う疾患領域に、凄い効果を発揮することがあることを知った」と漢方の特長を熱く語り、北里大学東洋医学総合研究所所長の花輪壽彦氏にバトンを渡した。
 花輪壽彦氏は、『「こころ」と「からだ」のさまざまな不調和』と形容して講演。働く女性の健康の極意としては、次のように提案した。
・照る日、曇る日
・雨の日は明るい色の服装を
・「男はあってよし、なくてよし」
・「無」から生まれる有限の「生」をいただき「無」にかえる
・漢方薬で生活にリズムをつけよう
 来場した参加者のひとりは「漢方は自然とともにあり、日本人の英知の結晶だと思いました」と終了後の感想を語った。


(詳細は本紙468号に掲載)

署名最終924,808名
受け止めるべき国民の声

 内閣府行政刷新会議の事業仕分けで答申された『漢方薬の薬価は保険対象外とする』との評価結果を受け、先月20日から保険適用の継続を訴える署名活動を行ってきた4団体(医療志民の会、NPO健康医療開発機構、(社)日本東洋医学会、日本臨床漢方医会)は、今月の12日(土)に受付を締め切り、最終的に924,808名(電子署名95,962名、郵便・FAX他828,856名)の署名を集めて、16日(水)、厚生労働省保健局を通じて長妻昭厚生労働大臣に2回目の提出を行った。1回目は今月1日(火)に、その時点までの署名簿273,636名分と陳情書を提出している。追加分の提出に際して(社)日本東洋医学会(寺澤捷年会長)は「3週間という短い期間にこれほどの署名が集まったことは、国民医療においていかに漢方薬が必須かということの民意」「今後も我が国の健康保険制度における漢方診療の位置づけが揺らぐことがないよう医療行政を進めていただきたい」とした長妻大臣宛て文書を提出した。
(詳細は本紙467号に掲載)

漢方・鍼灸を活用した日本型医療を考える
厚生労働科学特別研究事業に決定
----第5回21世紀漢方フォーラム

 12月10日(木)、慶応義塾大学医学部北里講堂(東京・信濃町)で開催された第5回21世紀漢方フォーラム(NPO健康医療開発機構、医療市民の会、慶応義塾大学医学部漢方医療センター共催)では、「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創世のための調査研究」に向けたパネルディスカッションが行われた。この調査研究は、今年度の「厚生労働科学特別研究事業」に申請していたが、今月3日、採択決定の評議結果が正式に出された。
(詳細は本紙467号に掲載)

漢方・鍼灸を活用した日本型医療とは
第5回21世紀漢方フォーラム

 平成21年度厚生労働科学研究費補助金による厚生労働科学特別研究事業「漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のための調査研究」は、今月3日、厚労省から採択決定の評議結果が出た。その研究事業を鑑み開催された第5回21世紀漢方フォーラムは、「日本は優れたものをたくさん持っているのに、それを十分活用できていない。また、海外のものの方が優れているように思う文化を持っている。しかし自国の優れたものを活用することで、より効率の良い日本型の社会が生まれるのでは」として、「今こそ漢方・鍼灸を活用した『日本型医療』を創生すべき」と論じている。

発言テーマと発言者は次の通り。
◆がんの治療、薬の副作用の軽減などに期待(NPO健康医療開発機構・武藤徹一郎氏)
◆漢方の活用は責任ある領域(慶嘸義塾大学医学部長・末松誠氏)
◆「漢方薬の保険適用」は継続を要望(民主党副幹事長・山根隆治氏)
◆慶応義塾大学から漢方を世界発信(国際医療福祉大学学長・北島政樹氏)

 また、パネルディスカッションでは、司会進行をジャーナリストで国際医療福祉大学教授の黒岩祐治氏がつとめ、「漢方医学で西洋医学と東洋医学それぞれの利点を合体させる考え方」を中心に議論が交わされた。
(詳細は本紙467号に掲載)

反対署名273,636人
政府「事業仕分け」に市民反発
患者の側に怒りの声、10日足らずで

  行政刷新会議の事業仕分けの中で11日(金)、「漢方薬、うがい薬、パップ剤」の健康保険適用薬からの除外が答申された件を受けて始まった反対署名活動は、10日足らずで273,636人の署名が集まるという異例の事態をもたらした。医師の7割から8割が漢方処方薬を使用するという状況下にある現在、この署名活動に最も協力したのは医療従事者ではなく患者の側 —— 一般市民だった。市民らは怒りの声ととともに、多数の署名を寄せるという結果になった。

 12月1日(火)、署名簿提出のために厚生労働省保健局を訪れたのは、発起四団体の代表および関係者14名。代表して陳情書を読み上げた寺澤捷年日本東洋医学会会長は、医療現場では、すでに広く漢方処方薬が利用されて いることや、全医学部・医科大学に漢方医学のカリキュラムが組み込まれている現状を伝えた。寺澤氏は「たとえば消化管の手術時に大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬を用いると、手術後の腸閉塞が激減する。(この方剤の)1日の薬価は160円。4週間投与したとしても4,380円。もし腸閉塞の再手術をするということになれば、数十万円の手術料になる。第一に患者さんの苦痛を不安を考えたとき、その利得は計り知れない。このような例は枚挙に暇がない」と、医師の手によって漢方方剤が処方されることの意義を訴えた。

 その後、同省内で行われた記者会見で寺澤会長は、漢方医学を布を織る時の『横糸』にたとえ、次のように語った。
「現代医学は日々進化し細分化している。そうすることで最先端の医療が実現している。それは言ってみれば布の『縦糸』のようなもの。ところが、たとえば体がなんとなくだるいとか、その『縦糸』には乗らない愁訴がある。漢方医学は、それをすくい上げる『横糸』の役割を担っている。『横糸』があるからこそ弾力のある布が織れる。この両方を同じ土俵で施している国は、世界広しといえども日本だけ。世界に発信できる医療です」。
(詳細は本紙466号に掲載)

民主議連、漢方除外「反対」の意思表明

 民主党有志議員による「適切な医療費を考える民主党議員連盟」(櫻井充氏、梅村聡氏など衆参両院合わせて160人の議員で構成)は12月3日(水)に行われた勉強会で、「漢方薬を保険適用から除外しない」ほか診療報酬の引き上げや、産科・小児科・僻地医療に携わる医師の人材確保など4項目をまとめ、小沢一郎幹事長に提出する決議文を作成した。 (詳細は本紙466号に掲載)

公明党厚生労働部会で説明

 11月30日(月)に開かれた公明党厚生労働部会(渡辺孝男部会長=参議院議員)に、日本東洋医学会の渡辺賢治理事(慶応義塾大学医学部漢方医学センター長)と川口龍哉事務局長が出席し、「今回の事業仕分け作業における漢方薬の保険適用除外の発言に対して抗議の声が殺到している。現段階で15万を超える署名が集まっている」と報告。同部会長の渡辺議員は、「今の医療現場において、漢方を保険から外すことは、現実問題として不可能。民主党のマニフェストには漢方を推進すると明記されている」などと意見を述べた。

(詳細は本紙466号に掲載)
■民主党マニフェスト(統合医療関連)の詳細は→こちら

新理事長に吉本悟氏 日本漢方交流会
第42回学術総会は名古屋(名城大学)で
婦人病の漢方療法を中心に

 11月22日(日)、23日(月・祝)の2日間にわたり、名古屋市・名城大学天白キャンパス「名城ホール」で日本漢方交流会第42回学術総会が開催された。同会の理事長は、前任の真鍋立夫氏から吉本悟氏にかわり、事務局も東京(世田谷区・正見堂薬局内)に移った。
 特別講演は仙頭クリニック院長の仙頭正四郎氏の『東洋医学的にみる女性の特性と疾患の特徴』。ほかにも婦人病の漢方療法を中心に各演者が講演し、婦人病の漢方治療の発表と症例検討会が行われた。
 同会は薬剤師に対する卒後漢方教育にも注力しているが、来年度から受け入れが始まる6年制薬学部の調剤実習生の受け入れについて、漢方の調剤薬局は店舗数が少ないなど、制度的に整備が必要な点が多いことも合わせて指摘した。 (詳細は本紙466号に掲載)

『釣藤鈎』(ちょうとうこう)テーマに
第24回生薬に関する懇談会
臨床頻用処方の視点で企画

さる12月5日(土)、星薬科大学(東京・品川区)において第25回生薬に関する懇談会が開催され、およそ250名の参加者が参集した。今年のテーマは『釣藤鈎』(ちょうとうこう)。アカネ科カギカズラ植物の釣藤鈎は、血圧降下、鎮痛、鎮座作用があり「釣藤散」(ちょうとうさん)や「抑肝散」(よっかんさん)、「七物降下湯」(しちもつこうかとう)などに配合されている。
 主に認知症やパーキンソン病、高血圧症候群などに奏効するこれらの方剤は、高齢社会にあって需要が伸び、現代における衆方(しゅうほう)となっている。しかし、釣藤鈎は産地や使用部分によって成分組成に差があったり、煎じ方や煎じ時間が薬効に影響を与えるという報告もあるなど、すでにさまざまな角度からの解析がなされている。
 流通事情について報告した神谷洋氏((株)ウチダ和漢薬)によると、現在の市場で流通しているものは中国産。ほとんどが自生している野生品で、市場においては少量にとどまっているという。
 植物の基原については寺林進氏(横浜薬科大学)、成分薬理については榊原厳氏((株)ツムラ)と松本欣三氏(富山大学和漢医薬研)がそれぞれ報告した。
 榊原氏の報告によると、アルカロイド成分のパターンが異なる釣藤鈎が存在しており、クロマトグラフなどの手法を用いて基原調査と薬理解析を行って分類に成功。血圧降下や睡眠延長、自発運動抑制の薬効と種類別の差異を見出したと報告。マウスを用いた実験を行ってきた松本氏は、抗認知症効果や脳虚血保護、脳神経の伝達機能に作用している結果について報告した。
 このほか釣藤鈎を配合した薬方解説を小根山隆祥氏(東京生薬協会)が、また臨床応用については「脳老化と認知症の漢方」と題して荒井啓行氏(東北大学加齢医学研)が報告した。 (詳細は本紙466号に掲載)

行政刷新会議「事業仕分け」
医療用漢方製剤「保険外」に抗議
「再検討」求める声続出、署名活動活発化

 11月11日から行われている内閣府の行政刷新会議による事業仕分け作業では、漢方薬等の市販品類似薬を保険適用外とする方向性が打ち出され、波紋を呼んでいる。民主党のマニフェストでは『統合医療の確立ならびに推進』を掲げており、業界関係者は「信じられない」と驚きの声をあげた。

以下、記事の全文は→こちら

ツムラ堅調、決算数字、計画を上回る
海外が驚嘆する漢方方剤の科学的解析

 11月12日(木)、ツムラ本社で行われた2010年3月期(第2四半期)決算報告で報告された概況によると、売上高44522、営業利益8961、経常利益5111(単位百万円)と堅調で、いずれも計画を上回った。
 今回の報告会で芳井順一社長が強調したのは、これまで「伝統と革新」としていた同社基本基調を今年「社会や人々にお役に立てる企業、人にやさしい企業」と変更したことについてだ。
 一方、アメリカにおける大建中湯の開発については、「漢方に興味を抱いている外科医師をリストアップし、その関連大学や研究機関に留学経験があるなどつながりのある日本の外科医師に処方解説を依頼した」と解説。
 また、米国メイヨー・クリニック(メイヨー医大)のマイケル・サール教授が漢方方剤の作用機序の解析がはるかに予想を超えていることに驚嘆したことや、オーストラリアで行われた国際外科学会で北島政樹(国際医療福祉大)・河野透(旭川医大)両教授に巻頭言を依頼しランチョンセミナーが実現したことなどの報告があった。芳井社長は「海外での使用のスピードは速まる可能性がある」と話した。(詳細は本紙465号に掲載)


Copyright 2005-2009. The KANPO IYAKU SHINBUN. Allrights reserved.